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バルセロナのペドリが円熟の境地 「テクニックはフィジカルに優る」を体現する22歳はCLでも輝くか (2ページ目)

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji

【どうプレーすべきか知っている】

「どうプレーすべきか知っている選手と共にあることが重要だ」

 ブラジル代表監督として最多勝利記録を持つマリオ・ザガロの言葉である。

 ザガロはフィジカルが優先される現代サッカーの風潮を憂いていた。

「筋肉がスキルに勝つ。このトレンドによって欧州の伝統的な強豪が多くの問題を抱えるようになった。小さな国が大きな国の才能ある個の表現を妨げている。しかしブラジルではまだかつてと同じ種類のプレーが愛されていて、私のアプローチはプランを廃して選手たちを完全に自由にすることだ」

 この言葉に続くのが前記の「どうプレーすべきか知っている選手と共にあることが重要だ」なのだが、監督なのに「プランを廃して」と言っているのがすごいところだ。「監督にどうプレーすべきか言われる必要のない選手と共にあることができるかどうか」が重要という監督だから、プランなど要らないというわけだ。

 実のところザガロはけっこうな戦略家なのだが、基本的なスタンスは選手に自由を与えることだったようである。

 ペドリは「どうプレーすべきか知っている選手」だ。

 ザガロの言う「どうプレーすべきか知っている選手」がひとりでは、おそらくどうにもならない。複数いることでチームとして威力が出てくる。ただ、そういう選手を複数揃えるのはセレソンと言えども簡単ではなく、例えば1970年メキシコW杯のペレ、トスタン、リベリーノ、ジェルソンや1982年スペインW杯のジーコ、ソクラテス、ファルカン、トニーニョ・セレーゾというケースのほうがむしろ例外的だった。それでも何度かは実現しているのは、サッカー王国たる所以だろう。

 バルセロナは「どうプレーすべきか」の「どう」が論理として継承されていて、ペドリほどの天才でなくても、ある程度はアイデアを共有できる環境と言える。

 それでもアイデアの完全な一致という点で、ペドリとリオネル・メッシ以上の関係性は今のところない。時と場所を完全に一致させていた関係は、シャビとイニエスタを失った後のメッシに久々に現れた最良のパートナーだったのではないか。それほどペドリは現代サッカーで稀有な存在なのだが、かつてはそこまで珍しくはなかったのだ。

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