欧州サッカー開幕で識者が選んだ「今季、最もブレイクが期待できる」日本人選手4人 (4ページ目)
勝負の序盤戦、再びリュディガーに煮え湯を
浅野拓磨(マジョルカ)
小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
マジョルカ(スペイン)では、かつて3人の日本人選手がプレーしている。
大久保嘉人はシーズン半ばに入団し、最後の5試合は神がかり的な活躍でチームを残留に導き、「救世主」と崇められている。家長昭博も、1年目はミカエル・ラウドルップ監督からの信頼を受け、半年間は"ホープ"だった。ただ、ふたりはどちらも1シーズンを通じては戦えず、2年目以降、ラ・リーガのレベルの高さに飲み込まれている。
そして久保建英が歴史を変えた。18歳のデビュー1年目でレギュラーに定着。1年を通じて活躍を見せ、すぐにビジャレアルへ"出世"。その後、舞い戻ってきたが、再びレアル・ソシエダに移籍し、現在はスター街道を突っ走る。
マジョルカにクラブ史上4人目の日本人となる浅野拓磨がやってきた。
浅野は過去の3人と比べると、技術的ポテンシャルやスケール感は劣るかもしれない。ただ、ドイツで長くプレーし、実績を積み上げ、カタールW杯でドイツ代表のアントニオ・リュディガーを相手にしながらゴールを奪ったように、モードに入った時は想定以上のプレーを見せる。そのスピードと攻守のがむしゃらさは、一見では強力な武器になるのだ。
マジョルカを新たに率いることになったハゴバ・アラサテ監督は、前任のハビエル・アギーレのように極端な守備的な戦い方ではない。選手のよさを生かすタイプで、バランスが優れたバスク人指揮官。日本人との相性は悪くないだろう。
実際、浅野はプレシーズンで定位置を確保している。右サイドのアタッカーが基本ポジションになりそうで、ボローニャ戦では貴重な先制点を記録(結果は1-1の引き分けでPK戦負け)した。中央のFWと入れ替わるように斜めに走って、長いパスを受けてのカウンター一発で、これはひとつのパターンになるかもしれない。
相手が浅野を甘く見る傾向があり、その場合、奇襲が打てる。彼の情報は今のところ限られ、開幕2~3試合のうちに1点でも取ることができれば、プレーも活性化するだろう。今後の活躍の手がかりになるはずだ。
逆にスタートダッシュできないと、相手に研究されたあとは厳しくなる。ラ・リーガはシーズンを通して活躍するのが難しい。それは相手が適応してくるからで、それを乗り越えられるか。
まずは開幕のレアル・マドリード戦だ。圧倒的に相手が有利だが、そういう試合のほうが浅野は勝機を見出せるかもしれない。再びリュディガーに煮え湯を飲ませられるか、注目だ。
著者プロフィール
杉山茂樹 (すぎやましげき)
スポーツライター。静岡県出身。得意分野はサッカーでW杯取材は2022年カタール大会で11回連続。五輪も夏冬併せ9度取材。著書に『ドーハ以後』(文藝春秋)、『4-2-3-1』『バルサ対マンU』(光文社)、『3-4-3』(集英社)、『日本サッカー偏差値52』(じっぴコンパクト新書)、『「負け」に向き合う勇気』(星海社新書)、『監督図鑑』(廣済堂出版)、『36.4%のゴールはサイドから生まれる』(実業之日本社)など多数。
浅田真樹 (あさだ・まさき)
フリーライター。1967年生まれ、新潟県出身。サッカーのW杯取材は1994年アメリカ大会以来、2022年カタール大会で8回目。夏季五輪取材は1996年アトランタ大会以来、2020年東京大会で7回目。その他、育成年代の大会でも、U-20W杯は9大会、U-17W杯は8大会を取材している。現在、webスポルティーバをはじめとするウェブサイトの他、スポーツ総合誌、サッカー専門誌などに寄稿している。
中山 淳 (なかやま・あつし)
1970年生まれ、山梨県出身。月刊「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部勤務、同誌編集長を経て独立。スポーツ関連の出版物やデジタルコンテンツの企画制作を行なうほか、サッカーおよびスポーツメディアに執筆。サッカー中継の解説、サッカー関連番組にも出演する。近著『Jリーグを使ってみませんか? 地域に笑顔を増やす驚きの活動例』(ベースボール・マガジン社)
小宮良之 (こみやよしゆき)
スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。パリ五輪ではバレーボールを中心に取材。
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