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ユーロ2024のスペインは「多様な人種の融合」の勝利 欧州サッカーに続く「地殻変動」 (3ページ目)

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki

【欧州以外にルーツを持つアタッカーたち】

 ドイツの場合は気質に変化が生じている。かつて他国を怯えさせたゲルマン魂は、どこかへ消えてしまったかのようだ。準々決勝のスペイン戦。後半44分に同点に追いついたシーンでは一瞬、ゲルマン魂が復活したかに見えた。かつてなら、追いつけば試合はドイツのものだった。気合いで逆転弾を叩き出したものだが、今回は逆にやられてしまった。どことなく優しくなった印象だ。

 大会全体を見ると、元気を失っているように見えるチームもあった。象徴的なのがイタリア代表だろう。生粋のイタリア人を前面に立てて戦った結果がベスト16での敗退だ。センターバックにナイジェリア国籍も持つマヌエル・アカンジを置いて戦うスイスに0-2で完敗した。

 GKマイク・メニャン(フランス)、DFアカンジ(スイス)、フィルジル・ファン・ダイク、デンゼル・ダンフリース(ともにオランダ)、マルク・ククレジャ(スペイン)、MFファビアン・ルイス(スペイン)、FWニコ、ダニ・オルモ、ヤマル(いずれもスペイン)、コーディ・ガクポ(オランダ)、キリアン・エムバペ(フランス)。

 以上が筆者の選ぶベストイレブンになるが、ククレジャ、オルモ、ファビアン・ルイスの3人以外は、欧州以外の国にルーツを持つ選手だ。

 この他、アタッカーだけでもジェレミー・ドク(ベルギー)、ブカヨ・サカ、ジュード・ベリンガム(ともにイングランド)、ヤマル・ムシアラ、レロイ・サネ(ともにドイツ)、ウスマン・デンベレ、ブラッドリー・バルコラ(ともにフランス)と、活躍した選手の大半が欧州以外にルーツを持つ。

 特にウイングは、その台頭が目立つポジションだ。かつてのルイス・フィーゴ(ポルトガル)、ライアン・ギグス(ウェールズ)、マルク・オーフェルマルス(オランダ)、ミカエル&ブライアンのラウドルップ兄弟(デンマーク)のような、欧州的な香りのするウインガーは見つけにくくなっている。

 ニコ、ヤマルというふたりのウイング登用は、バランスに優れた完璧な補強だった。左ウイングに駒を欠いたイングランドは、その点においてスペインに劣った。決勝の結果には、そうした意味で必然を覚えるのである。

著者プロフィール

  • 杉山茂樹

    杉山茂樹 (すぎやましげき)

    スポーツライター。静岡県出身。得意分野はサッカーでW杯取材は2022年カタール大会で11回連続。五輪も夏冬併せ9度取材。著書に『ドーハ以後』(文藝春秋)、『4-2-3-1』『バルサ対マンU』(光文社)、『3-4-3』(集英社)、『日本サッカー偏差値52』(じっぴコンパクト新書)、『「負け」に向き合う勇気』(星海社新書)、『監督図鑑』(廣済堂出版)、『36.4%のゴールはサイドから生まれる』(実業之日本社)など多数。

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