ユーロ2024で「完全優勝」 スペインは「ボールを前に運ぶ仕組み」で圧倒的に上回っていた (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki

【チームの能動性が極まったゴール】

 もっとも、スペインはジュード・ベリンガムには手こずっていた。

 ベリンガムは卓抜とした個だった。ヤマルからボールを奪い、ふたりを相手にキープし、3人を一発のターンで置き去りにした。そして73分、右サイドのブカヨ・サカがバックラインの前に折り返したクロスを、ポスト役になって落とし、交代出場のコール・パーマーの一撃を演出した。

 これで同点に追いつかれたのだが、スペインは動じなかった。

 前半が終わって、ロドリが負傷交代を余儀なくされていた。これは誰が見ても危機のはずだった。現代最高のプレーメーカーの不在が、マイナスにならないはずはない。ところが、スペインのチームとしての戦い方は変わらなかった。

 代わりに入ったマルティン・スビメンディが遜色のないプレーで、スペインの「サッカー」を稼働させる。スビメンディは積極的にボールを受け、動かした。そして相手ボールを潰し、サッカーをさせない。81分には敵陣でボールを強引に奪うと、拾ったニコがオルモとつなげて、ヤマルの決定機に。これは相手GKに防がれるが、「サッカー」で上回っていた。

 逆転弾は時間の問題だった。

 86分、バックラインのラポルトから入ったボールをファビアン、オルモがライン間でパス交換した後、交代で入ったミケル・オヤルサバルに縦パスをつける。オヤルサバルは左のククレジャにダイレクトで振ってゴール前に入ると、ダイレクトで戻ったボールを右足で合わせネットを揺らした。チームの能動性が極まったゴールだった。

 スペインは、大会を通じて7戦7勝。「サッカー」を見せ続けたと言えるだろう。クロアチア、イタリア、ドイツ、フランス、イングランドはそれぞれ強烈な個を擁していたが、スペインはボールを前に運ぶ仕組みにおいて上回っていた。

 その点で今回の優勝は、「サッカー」の勝利とも定義できる。

 カタールW杯後にスペインを率いることになったルイス・デ・ラ・フエンテ監督が、「サッカー」を選んだからこそ、この戦いは生まれた。平凡な監督は、ニコやヤマルに「ハードワーク」とやらを押し付け、サッカーを退屈にさせる。自分たちがボールを持つという「正義」で勝つことができれば、守りでの消耗を最低限に抑えられる。徹底したボールプレーで、相手をノックアウトできるのだ。

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