ユーロ2024準決勝 フランスの敗因は、スペインに劣った中盤とエムバペのワンプレー (3ページ目)

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki

【ナバスを甘く見たのか】

 フランスはこれまで、エムバペは相手SBが攻め上がる際、守備に戻らずにすむ態勢になっていた。マイボール時には左ウイングを務めるが、相手ボールに転じると1トップとして構えたのだ。マルクス・テュラム(インテル)が、マイボール時には1トップ、相手ボール時になると左ウイングとして、まさにエムバペの影武者の役を果たしていたからだ。

 だが、この日のエムバペの役割は純粋な左ウイングだった。1トップとして先発したコロ・ムアニと、攻守が切り替わるたびにポジションを入れ替えることはなかった。相手SBの攻撃参加を牽制する役割も課されていたのだ。

 フランスベンチが、スペインの右SBが37歳のベテランであることを甘く見て、大きな労力は不要だろうとエムバペを左ウイング専門で起用したという見立てもできる。あとで振り返ったとき、エムバペはこの自身の対応についてどう思うだろうか。

 ウイングが守備をサボったばっかりに決勝ゴールを許すというシーンを、これまで筆者は大一番で幾度も見ている。左ウイングの場合で言うならば、以下のふたつが記憶に鮮明だ。

 ひとつは2007-08シーズンのチャンピオンズリーグ(CL)決勝で、クリスティアーノ・ロナウド(マンチェスター・ユナイテッド)がカルレス・プジョル(バルセロナ)のマークを怠ったことが原因で生まれた2失点目のシーン。そして2003-04のCL準々決勝第2戦で、ジネディーヌ・ジダン(レアル・マドリード)がウーゴ・イバーラ(モナコ)のマークを怠ったことで生まれた逆転弾のシーンだ。

 この日のエムバペ対ナバスの関係は、そこに加えたくなる象徴的なワンシーンになる。開始直後の9分、エムバペがナバスに完勝していたことも、エピソードに加わる。

 後半13分、ナバスは足に変調をきたし、ベンチに下がった。スペインの右SBには戦術的交代で、CBで先発したナチョ(レアル・マドリード)が回った。ナチョはDFならどこでもこなせる多機能型選手だが、SBとしては守り屋だ。専守防衛に徹することになる。

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