ユーロ2024準決勝 フランスの敗因は、スペインに劣った中盤とエムバペのワンプレー (2ページ目)

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki

【逆転弾の瞬間、エムバペは...】

 実際、試合の流れはこれをもって一変する。直後からスペインお得意のボール支配が始まった。逆転弾が生まれたのは、そのわずか4分後だ。

 一連のパスワークのなかからMFダニ・オルモ(ライプツィヒ)が右サイドに展開すると、ボールはナバスの鼻先に出た。ここまで後手を踏んでいたナバスだが、怯まず勝負に出る。対峙するフランスの左SBテオ・エルナンデス(ミラン)を半歩、抜き去るや、アーリークロスを送り込んだ。CBウイリアン・サリバ(アーセナル)が身を挺してこれをクリアしたが、ダニ・オルモの前に浮き球となってこぼれ出る。

 準々決勝ドイツ戦同様、彼の切れ味はこの日も健在だった。身体を寄せてきたオーレリアン・チュアメニ(レアル・マドリード)をリフティングのモーションから鋭角に外すやシュートを打ち込むと、ボールはカバーに入った右SBジュール・クンデ(バルセロナ)の足に当たりながらフランスゴールを揺るがした。逆転ゴールの瞬間である。

 シュートを決めたダニ・オルモもさることながら、それ以上に見逃せないのは、失点に絡み、イエローカードをかざされていながらも、果敢な縦突破に及んだナバスだ。

 想起したのはヨハネスブルクのシティグラウンドで行なわれた2010年南アフリカW杯決勝対オランダ戦だった。決勝ゴールをアンドレス・イニエスタが叩き出す直前、右サイドを数十メートル、ドリブルで切り裂いた韋駄天ぶりである。あのプレーがなければ優勝はなかったと言いたくなる、スペイン人にとっては忘れることができないに違いない、ライン際のドリブルだった。

 逆境に立たされてもナバスは"らしさ"を発揮した。他方、その時、ナバスのマーカーであるエムバペは何をしていたかといえば、20メートル横で足を止め、傍観しているだけだった。ナバスがポジションを上げた際には一緒に下がったものの、スペインがパスを回しているうちにマーカーへの注意力を失っていた。

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