槙野智章が10年経っても忘れられないドイツでの練習風景「ロンドでボールを取られても絶対に中に入らない」 (3ページ目)

  • 吉崎エイジーニョ●取材・文 text by Yoshizaki Eijinho

【1対1の話し合いが大事】

 槙野のヨーロッパでの生活は2011年からの1シーズン半、ブンデスリーガ1部での試合出場は合計8試合で終わった。Jリーグ復帰当時にも本人に話を聞いたが、当時は「ブンデス2部からのオファーもあったが、攻撃がロングボール主体のチームが多く、希望スタイルではなかった」と話していた。このままドイツでプレーを続けてもケルンと同じことの繰り返しになる。ならば日本で自分が生きるスタイルでプレーしたいという思いがあったのだろう。

 ケルンでの結果は、思ったようなものではなかったのかもしれない。それでも得た経験は2024年の槙野智章のなかにも確かに生きている。解説業とともに神奈川県サッカーリーグ1部の品川CC横浜の監督を務める日々のなかで、選手との1対1の会話を重要視している。

「そういう自己プロデュースを含めて、 1on1のその話し合いってものすごく大事だなって思っています。自分のことって意外に自分は知ってないなと思ったり、選手が自分のことをどう表現するのかという点に関心がありますよね」

 もともと強いキャラクターで知られた槙野は、ドイツという強烈な個の集まる場所でさらに揉まれた。言葉による表現力が限られるなか、周囲を観察して、考察する力を得た。そういった時間だったのではないか。
(おわり)

槙野智章 
まきの・ともあき/1987年5月11日生まれ。広島県出身。サンフレッチェ広島ユースから2006年にトップチームに昇格。DFとして攻守に渡る活躍を見せ、2011年からケルン(ドイツ)、2012年から浦和レッズ、2022年にはヴィッセル神戸でプレー。J1通算415試合出場46得点を記録。Jリーグベストイレブンには3度選ばれた。日本代表では国際Aマッチ38試合出場4得点。2018年ロシアW杯に出場した。2022年の現役引退後は、タレント、解説者、指導者として活躍中。

プロフィール

  • 吉崎エイジーニョ

    吉崎エイジーニョ (よしざき・えいじーにょ)

    ライター。大阪外国語大学(現阪大外国語学部)朝鮮語科卒。サッカー専門誌で13年間韓国サッカーニュースコラムを連載。その他、韓国語にて韓国媒体での連載歴も。2005年には雑誌連載の体当たり取材によりドイツ10部リーグに1シーズン在籍。13試合出場1ゴールを記録した。著書に当時の経験を「儒教・仏教文化圏とキリスト教文化圏のサッカー観の違い」という切り口で記した「メッシと滅私」(集英社新書)など。北九州市出身。本名は吉崎英治。

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