槙野智章が10年経っても忘れられないドイツでの練習風景「ロンドでボールを取られても絶対に中に入らない」 (2ページ目)

  • 吉崎エイジーニョ●取材・文 text by Yoshizaki Eijinho

【ミスを認めないし、謝らない】

 では、そうした「何者か」を主張することが基本的なマインドアップとして出来上がっている選手たちが、ボールを蹴るとどうなるのか。槙野は、ケルンでの練習中に驚くことがあった、と振り返る。

「球際の戦いが激しいんですよ。そして、練習中のプレーから『ファールだ』『ファールじゃない』とか、ゴールの判定についても『入った』『入ってない』。はたまたラインを割った、割らないで言い合ったり、スタッフに要求するようなことが結構あったので、あ、練習からこういうのがあるんだって思いましたね」

 毎日のように繰り返される光景もあった。

「ウォーミングアップのボール回し、ロンドでボールを取られても絶対に中に入らない。ミスしているのに『お前のパスミスだろう。入れよ』と。『いやいや、お前ができなかったんだろう』っていう。ほぼほぼケンカですよ。認めないし、謝らない。そして、主張しない限りその人が中に入ることになる。言わないと自分が間違いだったということなので」

 実は槙野は、2013年にJリーグに戻ってきたあとも、このことについて考えさせられるところがあった。

「海外から帰ってきた選手たちは、日本でもめっちゃ、それをやることがあるんですよね」

 もちろん、海外で得たものを日本に伝えるのは大切なことだ。しかしその一方で「いや、なんでそんなん、できないの? 海外ではこんなの、当たり前だよ」と言って終わらせる選手も見てきた。

 槙野は欧州組、国内組双方の心情がわかる。だから海外を経験した選手には、しっかりと考えを伝えて、コミュニケーションを取ることを促してきた。

「普段から激しくいくよ、というのを伝えましょう。そしてピッチの中で起きた問題は、ピッチの中でのこと。ピッチの外に出ればもう握手ね、ということで」

 日本と海外では、やり方が真逆だとすら思う。だから、違いを知らない人が多いなかで「その伝え方とやり方をうまくやらないと浮いてしまう」。それは本当にもったいないことだ。

「日本のよさがあって、日本のサッカーと文化はこうだというのも出来上がりつつある。そのなかで足りないところにヨーロッパのベースの部分をすり合わせるとか、知らないようなところを伝えてあげる作業は大事になってくると思います。だから、『こうしろ』と言って合わせるのは、難しいと思うんですよね」

 謝らない、というのがヨーロッパのピッチでは正しい時がある。しかしそれは、日本では文化に合わない。

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