久保建英のCLザルツブルク戦でスペイン紙が称えた「フットボールが横溢したプレー」とは? (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • photo by AP/AFLO

【派手なドリブルやシュートがなくても】

「味方を生かすことで、自分も輝ける」

 それは惜しまれつつ引退したダビド・シルバの教えでもあるが、緩急の変化を使った華麗なテクニックだけでなく、戦術的な自己犠牲も含んでいるのだろう。

 前半26分、2点目のシーンで久保が直接関わったのは一瞬だが、白眉だった。

 自陣ゴール前から発動されたカウンター、久保は相手ゴールに背を向けてブライス・メンデスのパスを受けると、そのスピードを落とさずにボールを落とす。その後、ドリブルで持ち上がるブライスの右側を、久保は力強いランニングで駆け上がることで、相手に的を絞らせていない。おかげでブライスは自分の間合いでシュートを打てた。

 久保のプレーの簡潔さ、献身性、タフネスが出た瞬間で、まさにタクティカルな動きが集約されたものだった。

 久保は随所で老獪とも言えるプレーで、若いチームを相手に差を見せつけている。41分には左に回ってボールを受けると、相手を十分に引き付けてパス。結局、構わず突っ込んできた相手選手に足の甲を踏みつけられ、ファウルになった。これでイエローカードを誘い、相手の動きをひとつ封じた。

 激しく食いつくようにマークしてくる相手に対し、ダイレクトで叩き、フリーになった味方を使う。それも、歩幅まで計算したようなパスが多かった。派手なドリブル突破や豪快なシュートはなくても、効率的なプレーが目立ったと言える。

「サイドを替える動きで、(相手チームの守備に)混乱を引き起こしていた。前半2分のバレネチェアへのパスはゴールアシストに等しい。フットボールが横溢したプレーだったが、残念なのは相手の打撃の対象になっていたことだろう」

 スペイン大手スポーツ紙『エル・ムンド・デポルティーボ』の評価は、的を射ている。

 こうしたゲーム展開で、久保がフォア・ザ・チームで戦い、実際に勝利に貢献できた点は、今後に向けて大きな布石になるだろう。毎試合、スーパーな活躍をすることはリオネル・メッシのような"神"にしかできない。どんな状況や相手であっても、戦術的ミッションを果たし、大きく力を落とさず、敵の力を削ぎ、勝利を重ねることが、次につながる。

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