マラドーナ時代以来33年ぶりセリエA優勝目前「ひとつの生き方」とまで言うナポリ、復活の要因 (3ページ目)

  • 利根川晶子●文 text by Tonegawa Akiko
  • photo by Insidefoto/AFLO

【チームを後押しするナポリの人々】

 こうしたチームの雰囲気が悪いわけはない。前出のペトラッツォーロ記者は、チームがひとつにまとまっていることも勝因と挙げているが、スパレッティ監督もこんなエピソードを語っている。

「チーム全員のチャットグループがあり、私もそこに入っている。2月にクワラツへリアの22歳の誕生日があったんだが、夜中の12時をちょうど過ぎた瞬間に、チーム全員からおめでとうメッセージが送られていた。それがこのチームの空気感だよ」

 優勝まであと一歩の選手たちは非常に落ち着いていると、ペトラッツォーロ記者は言う。

「彼らはひとつひとつの試合や練習に集中しています。でも同時に、ナポリの人たちがこれほど喜び、彼らを愛していることを感じていて、それが彼らの原動力になっています。新しくナポリにやって来た選手たちと、今、新しい時代が始まろうとしています。彼らは決して今シーズンの優勝だけを目指しているわけではありません。これから新しいナポリの時代を築こうとしているんです」

 そう、ナポリの優勝を後押しするもうひとつ重要な要素が、ナポリの人々だ。彼らのチームへの愛はどのイタリアの町よりも強く、それが選手たちを支えている。

「ナポリは人生、ナポリは唯一無二、ナポリは魂です。ナポリに人たちは何かを愛する時、理屈抜きで無条件に愛情を与えます。そしてどんな問題でもいつかは解決できると信じています。人は生きている限り絶対何かできるからです。つまり、ナポリとはひとつの生き方なんです」(ペトラッツォーロ記者)

 筆者は1990年、ナポリが二度目のスクデットを獲得した時に、幸運にもこの街にいた。その様子は圧巻だった。街中の建物、街中の道がナポリカラーに塗られ、すべての家の窓にはナポリの旗がたなびく。当時、優勝を争っていたのはミランだったので、赤と黒に塗られた便器を乗せた車が走っていたり、葬儀会社がシルビオ・ベルルスコーニ(当時のミラン会長)の葬儀をやったりしていた。レストランは道行く人に無料で大盤振る舞い。本当の祭りというものはこういうものなのかと、実感した。ミラノやトリノといった他のイタリアの街でも、その街のクラブの優勝風景を見たことはあるが、それとはけた違いだった。

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