三笘薫のもうひとつの魅力が浮き彫りに ブライトンはFAカップ敗退も好機を演出していた (3ページ目)
【常時、チームの役に立っていた】
しかし、ロベルト・デツェルビ監督は、それでも三笘を延長戦の最後までフルタイム出場させた。縦に抜けなくても、ミスをしても、プレーする機会が少なくても、腐ることなく平常心を維持していたからだ。
勤勉、忠実、真面目。そのうえ熱くならず、顔色ひとつ変えずクールに飄々とプレーした。感情を爆発させるなどして、ムダなエネルギーを消費することがないのだ。ドリブルが得意なウインガーと言えば、概して感覚派でムラッ気が多いものだ。三笘にはそうした負の要素がない。頭は常に冴えている。冷静だ。
マイボール時のみならず、相手ボールにもキチンと的確に反応できる。試合が90分から120分の戦いに延長されても、常時、チームの役に立っていた。舞台がウェンブリーで、相手がマンチェスター・ユナイテッドであっても、そのスタイルを貫くことができる。三笘のもうひとつの魅力が浮き彫りになった試合でもあった。
三笘にこの試合最大の得点機が訪れたのは延長後半8分だった。中央で右ウイング、ソリー・マーチからパスを受け、ダブルタッチで相手をかわすと、その足でドイツ人MFパスカル・グロスに縦パスを送り、リターンを受けた。ゴール正面、マンチェスター・ユナイテッドのGKダビド・デ・ヘアと瞬間、1対1になった。トラップが決まればゴールと思われた瞬間、右足のタッチが流れ、チャンスを逸した。
PK合戦もまた、両軍7人目のキッカーまで及ぶ熱戦だった。外したのはブライトンの7番目、マーチで、三笘が登場する前に勝敗は決着した。三笘に先に蹴らしていればと思わずにはいられなかった。三笘には余力があった。マーチに試合中の活躍度では若干劣ったが、冷静さでは勝っていた――そんな印象を抱くほど、このFAカップ準決勝は紙一重の接戦だった。
著者プロフィール
杉山茂樹 (すぎやましげき)
スポーツライター。静岡県出身。得意分野はサッカーでW杯取材は2022年カタール大会で11回連続。五輪も夏冬併せ9度取材。著書に『ドーハ以後』(文藝春秋)、『4-2-3-1』『バルサ対マンU』(光文社)、『3-4-3』(集英社)、『日本サッカー偏差値52』(じっぴコンパクト新書)、『「負け」に向き合う勇気』(星海社新書)、『監督図鑑』(廣済堂出版)、『36.4%のゴールはサイドから生まれる』(実業之日本社)など多数。
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