小野伸二以上。歴代世界最高の「両利き」プレーヤーはベルギー人FW (3ページ目)

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki

 右利きながら左足キックがうまい人はいくらでもいる。しかし左利きでも難しそうな無理な体勢から、ボレーを含むパンチ力に富む鋭いキックを蹴り込める選手はそういない。切り返しだったり、ドリブルだったり、シュート以外の細かなボール操作も左利きと同じように行なう。

 スピーディーで、ドリブルは切れる。その流れでシュートに持ち込む一連のアクションには何といっても華がある。シュートシーンから逆算されたような動きをする。シュートで完結しそうなボールの運び方。それを可能にしているのが、両利きならではの特性だ。右なのか左なのか、進む方向がわかりにくい。これこそが、相手の守備陣が混乱に陥る一番の要因だ。相手の守備網を正面からドリブルでズタズタに引き裂きながら、シュートポイントに向かって進んでいく。

 最も記憶に残る一戦は、1995-96シーズンのUEFAカップ(ヨーロッパリーグの前身大会)準々決勝対バルセロナ戦だ。当時は、CL本大会出場枠は各国リーグとも各1チームだったため、UEFAカップでの対決が実現したのだが、試合は大接戦だった。トータルスコアは4-5。カンプノウで行なわれた第1戦(1996年3月5日)は2-2。フィリップス・シュタディオンで行なわれた第2戦(同年3月19日)が2-3でバルセロナが勝利した。

 第1戦のニリスは、2ゴールを叩き出す大活躍を演じた。開始早々、直接FKで奪ったゴールは、壁の右外を巻く右足のカーブキックだったが、後半5分に挙げた2点目のゴールは"自慢"の左足だった。CKのチャンスに反応したPSVのDFエルネスト・ファーベルのヘディングシュートがバルサゴールを強襲。そのリバウンドがペナルティエリア左隅あたりに転々とするところに現れたニリスは、ためらうことなく左足を振り抜いた。
 
 パンチの効いた、火を吹くような強烈なキックではあったが、僅かにスライス軌道も描いていた。左足のインステップと言うより、ややアウトに掛かった部分にボールをヒットさせる繊細なアクションでもあった。左利きの名手のキックフォームを重ねたようなシルエットを、ニリスはその瞬間、描いたのだった。 

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