2020.08.26

バイエルンを欧州の頂点に導いた新名将フリック。新機軸戦法の正体

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji
  • photo by Getty Images

サッカー名将列伝
第12回 ハンス=ディーター・フリック

革新的な戦術や魅力的なサッカー、無類の勝負強さで、見る者を熱くさせてきた、サッカー界の名将の仕事を紹介する。今回は、先のチャンピオンズリーグで優勝したバイエルンのハンス=ディーター・フリック。シーズン途中の就任ながら、チームを今季三冠に導いた。苦境にあえいでいたチームを、どのように再生させたのか。その戦術にスポットを当てる。

◆ ◆ ◆

<勝率90%超え>

 2019-20シーズンのUEFAチャンピオンズリーグ(CL)はバイエルンの優勝で幕を閉じた。準々決勝からは一発勝負の集中開催(ポルトガル)という例外的なレギュレーションに変更され、試合数が少ないとはいえ全勝優勝はCL初の快挙だった。

バイエルンを今季三冠に導いた、フリック監督 ハンス=ディーター・フリック監督は、シーズン途中に就任している。11月に前任のニコ・コバチが辞任した時点では暫定監督だった。その後、6月までの契約延長を勝ち取り、CL優勝で来季も指揮を執るのは間違いない。

 フリックが就任後、バイエルンは36戦でわずか2敗、勝率は90%を超えている。ブンデスリーガ8連覇、DFBポカール(国内カップ戦)、CLの三冠を達成したとはいえ、フリックを名将と言えるかどうかはわからない。

 ヴィクトリア・バンメンタール(96-00年、当時4部)、ホッフェンハイム(00-05年、当時3部)を率いたあとは、オーストリアのレッドブル・ザルツブルク(05-06年)、ドイツ代表(06-14年)、今季前半のバイエルンと、一貫してアシスタントコーチを務めてきた。

 ただ、フリックが率いた今季後半のバイエルンが、非常に強力だったのは間違いなく、今回はフリックの戦術面に焦点を当ててみたい。

<中央回避の攻撃を徹底>

 バイエルンの戦法は、昨季CLで優勝したリバプールと似ている。リバプールをさらに洗練させたスタイルと言っていいかもしれない。

 特徴的なのは、攻撃で中央をまったく使わないことだ。センターサークルから相手ペナルティーエリアにかけての中央エリアをボールが経由しない。ここは攻めるためのエリアではなく、ハイプレスでボールを奪うためのエリアとして設定されているようだ。