名伯楽が整えた伝統のイタリア式戦術。勝ちまくった要因を探る (4ページ目)

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji
  • photo by AFLO

 攻撃は司令塔にミシェル・プラティニ。バロンドールを3年連続で受賞したスーパースターだ。かつてのミランにおけるリベラの役回りである。カウンターのロングパスと中盤の構成を司り、プラティニの場合は得点力もあった。守備のタスクはあまり重くなくて、守備陣前面の中央のスクリーン役という程度。

 FWは2トップ+ワーキング・ウインガー。85年のチャンピオンズカップファイナルではパオロ・ロッシとズビグニェフ・ボニエクの2トップに、マッシモ・ブリアスキが右ウイングとMFを兼任する役割だった。

 この組み方もイタリア式。中盤とサイドを動き回るワーキング・ウインガーとしてはフランコ・カウジオ、ブルーノ・コンティ、ロベルト・ドナドーニが歴代イタリア代表で活躍してきた。システムは違うが、06年ワールドカップで優勝した時のマウロ・カモラネージもタイプとしてはこれだった。

 伝統のイタリア式は左右非対称な並びのうえ、攻撃陣もポジションというより選手の個性に応じて役割が割り振られていて、かなり特殊なシステムなのだが、イタリアではこれが普通だったわけだ。

 アリゴ・サッキ監督のミランがゾーナル・プレッシング(日本ではゾーンプレスと呼ばれた)でセリエAに新風を起こし、ディエゴ・マラドーナがナポリでプレーしている時期、トラパットーニはインテルを率いて1988-89シーズンのスクデットを獲っている。新しくもないし、スーパースターもいない、古風とさえいえるイタリア式に則った手堅いスタイルだった。

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