33年前に生まれた画期的戦術。
サッキの「ゾーンプレス」の仕組みとは (4ページ目)
「私が発明したのは戦術ではなく練習方法」(サッキ)
サッキはミランのシルビオ・ベルルスコーニ会長に頼み込んで、「ケージ(鳥カゴ)」と呼ばれた、四方を煉瓦の壁で囲まれたミニコートを建設している。そして、そこでノンストップゲームを行なった。インテンシティの高さが決め手となる戦法なので、あらかじめそれに慣れておく。そのための体力や素早い判断力を養成し、奪ったボールを効率的に攻撃へつなげるためのトレーニングを積んでいた。
<「ストーミング」へつながる源流>
サッキのトレーニングは、パートごとの強化と、全体の連動を組み合わせたものだった。
ディフェンスラインの細かいラインコントロールは、ボールの状態によって法則性があり、4人の息を揃えるためのトレーニングが欠かせない。一気に押し上げるボール狩りとは違い、ラインの上下動を繰り返して、FWからDFまでの距離を30メートルのコンパクトな状態に保ちつづけた。
MFのラインは横の距離感を正しくつかむこと。後年、ジョゼップ・グアルディオラ監督によるバルセロナのプレッシングは、5人で横幅を完全に埋める形だったが、サッキのミランの場合は4人である。ひとりあたりの受け持ちゾーンが広い。ボールサイドに寄せきった時に逆はガラ空きになる。そのため、4人の距離を詰めて「壁」の密度を上げるタイミングと速度が重要だった。
プレッシングは相手から「時間」と「空間」を奪い、当初は絶大な効果をあげた。インテンシティの高さと持続性は類のないもので、やがて世界中が模倣して普及していった。フットボールの戦術史は、ミラン以前と以後に分けられる。
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