マンUを買収した「ビリオネア」がサッカー界にもたらした功罪 (2ページ目)

  • ジェームス・モンターギュ●取材・文 text by James Montague 井川洋一●訳 translation by Yoichi Igawa

 アメリカ本国で大きな注目を集めるようになったのは、1995年にスポーツ界に進出してからだ。アメリカンフットボールをまったく知らなかったにもかかわらず、タンパベイ・バッカニアーズを1億9200万ドル(当時のレートで約192億9000万円)で買収。当時のNFLフランチャイズ権獲得における最高額で落札し、経営は3人の息子であるジョエル、ブライアン、エドワードに託した。

 当時のバックス(バッカニアーズの愛称)は成績が低迷しており、この買収はあまり"おいしいビジネス"とは思われていなかったが、グレイザー家はすぐにいいアイディアを思いつく。

 経営的に、バックスには新しいスタジアムが必要だったが、その莫大なコストは負担したくない。そこで市の行政にかけあい、建設費の半分はグレイザー家が払い、残りは税金で賄うように依頼した。さもなければ、「バックスの本拠地を別の場所に移さなければならない」とつけ加えて。

 市からの妥協案が却下されたあと、ひとりの"政治屋"が斬新なアイディアを持ち寄ってきた。それは「コミュニティー投資税」と呼ばれるもので、向こう30年間にわたって消費税のうちの0.5%を教育や法曹機関に加え、公共施設事業の返済に充てようとするものである。

 これにより、30年間で計上されるおよそ27億ドル(約3021億円)の市税から、新スタジアムの建設費をまかなえるようになった。そのスタジアムで計上される売り上げは、すべてオーナーが懐に収めるというのに。

 巧妙な手口で、オーナーのためにスタジアム建設費を払わせられる可能性を知った貧しい市民たちや活動家、政治家たちは憤慨した。ところが、住民投票では53%の賛成票を得て、1998年にレイモンド・ジェームス・スタジアムは完成(建設費は約1億6800万ドル=当時のレートで約222億5000万円)。のちに長さ約31メートル、重さ43トンの海賊船が設置され、得点が入るたびに盛大な花火を打ち上げるようになった。

 最終的にグレイザー家は、私財をほとんど投じることなくスタジアムを手にした。米『フォーブス』誌によると、現在のバックスの資産価値は9億8100万ドル(約1097億2000万円)と見積もられている。グレイザーがチームを買った額のおよそ5倍だ。

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