2003年、アブラモビッチがチェルシーを買収した本当の理由 (4ページ目)

  • ジェームス・モンターギュ●取材・文 text by James Montague 井川洋一●訳 translation by Yoichi Igawa

 しかし、鼻の利くアブラモビッチは、本当のパワーがどこにあるのかを察知し、プーチンに寄り添った──新大統領は「オリガルヒが不当に手にした企業や利権を国営に戻す」と宣言していたにもかかわらず。

 そして、プーチンと対立するオリガルヒたちは脱税などを理由に次々に逮捕され、資産を奪われていった。オリガルヒが自分の資産を保持したいのであれば、プーチンに絶対の忠誠を捧げなければならない。そこには当然、政治的な野心の放棄も含まれている。失脚し、現在は亡命している元オリガルヒたちによると、敬意を"形"で示す必要もあったという。

 アブラモビッチら親プーチン派のオリガルヒたちは、大統領主導のプロジェクトに数百万ドルを献上したと言われている。「プーチンパレス」と呼ばれる黒海の宮殿の建設費や、「オリンピア」と名付けられた最新鋭のヨットの贈り物などが含まれると伝えられるが、アブラモビッチはこれを認めていない。BBCの報道番組『パノラマ』が2016年にこの件を再び主張すると、彼の弁護士は「憶測や噂の焼き直しにすぎない」と否定している。

 一方、アブラモビッチのかつての師であり相棒だったベレゾフスキーは、一貫してプーチンに否定的な発言を繰り返し、貢物を断ったことも声高に明かした。プーチンとアブラモビッチと敵対することになった彼は、ロシア国内での生活に身の危険を感じ、2003年にイギリスへ亡命。そして2011年には、アブラモビッチを相手取り、イギリス史上最大の訴訟を起こした。

 ベレゾフスキーの主張は、「プーチンに命じられたアブラモビッチが、テレビ局を初めとするベレゾフスキーの資産を奪い取ろうとした」というもの。アブラモビッチはこれを断固として否定した。

 最終的に、数十億ドルにのぼる賠償を求めたベレゾフスキーの主張は、証拠不十分で退けられた。ただしこの訴訟により、ロシアのオリガルヒたちがどのようにして資産を守り、別のオリガルヒたちがいかにしてそれを奪われたのかが明るみになった。

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