2003年、アブラモビッチが
チェルシーを買収した本当の理由 (3ページ目)
1996年、エリツィンは再選の選挙戦に臨んでいたが、対立候補は手強い相手だったため、エリツィンはポジティブなキャンペーンとより多くのカネを必要とした。そこで、彼はロシアのニューリッチ、「オリガルヒ」たちと取引をした。新興の大富豪たちはエリツィンの再選を確約し、その見返りとして、元国営企業の民営化の権利を譲り受けることが約束された。
エリツィンの選挙事務所の金庫は膨れ上がり、オリガルヒたちが所有するメディアでは連日、彼に好意的な報道が流れた。そして約束どおりにエリツィンが再選すると、ロシアで最も資産価値の高い権益が、信じがたいほど廉価(れんか)でオリガルヒたちの手に渡ったのである。
アブラモビッチとベレゾフスキーは、石油精製企業シブネフチ(現ガスプロムネフチ)を、たったの1億ドルで購入──当時の実際の評価額はおよそ30億ドルだった。多くのロシア国民が食べるものにも困っている頃、彼らはこの契約でビリオネアの仲間入りを果たした。エリツィン政権下では、多くのオリガルヒがとてつもない財力を握るようになり、国民の大多数から蔑視(べっし)されていた。
1990年代終盤になると、エリツィンはアルコール依存症とそれに伴う体調不良に悩まされ、1998年の経済危機などにより人気は急落。翌1999年に大統領の座を退いた。
その後任に指名されたのが、ウラジーミル・プーチンだ。KGB工作員として東ベルリンに駐在した経歴を持ち、その後、サンクトペテルブルクで力を蓄えた現大統領である。
ところが、"エリツィン・ファミリー"のなかには、この指名に不満を持つ者もいた。アブラモビッチのパートナーであるベレゾフスキーや、当時のロシアで最も高額な総資産を保持していたミハイル・ホドルコフスキーらは権力への野望を隠そうとせず、プーチンの力を過小評価していた。
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