2018.07.25

ムバッペが育った「郊外」に、
フランス社会の立ち直りを見た

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper 森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki

サイモン・クーパーのフットボール・オンライン】W杯で優勝したフランスの現在(後編)

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 フランス代表の19歳の天才キリアン・ムバッペは、パリに近いボンディという「バンリュー(郊外)」で育った。このバンリューに住む若者たちも、多くのアイデンティティーを持っている。ボンディではさまざまな人種の若者たちが、大スクリーンの前に集まって試合を見ていた。彼らにはフランス人だという自覚があるが、別の日には別の国を応援するかもしれない。

 たとえばムバッペは、父がカメルーン人、母がアルジェリア人と、バンリューでは典型的な「ミックス」だ。しかし、ほとんどのバンリューには白人もたくさん住んでいる。アメリカと違って、フランスには黒人だけが住む地区はない。

 選手たちがフランス人だという自覚を持つ理由のひとつは、フランスに育てられたことだ。6歳になると、彼らは地元の自治体が助成金を出しているアマチュアクラブに加入する。資格を持ったコーチがいて、きれいなピッチがある。

 僕は以前、ポール・ポグバが育ったバンリューを訪れ、彼を指導した監督のサンブー・タティに会った。小さかったときのポグバはとにかくドリブルが大好きで、我慢させるのが大変だったと、タティは言った。

優勝報告会でのディディエ・デシャン監督(左)とエマニュエル・マクロン大統領 photo by AFP/AFLO フットボールシーズンの週末になると、僕は早起きをして、息子たち(9歳の双子だ)をバンリューのどこかで行なわれる試合に連れていく。フットボールはフランス社会の一部になっており、住民の統合が最もうまく進んでいる領域だと思う。僕の息子たちのチームも対戦相手も、どちらも多人種混合だ。一度対戦した少年チームのコーチはイスラム教徒の女性で、トラックスーツを着てベールをかぶっていた。