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隠居状態の名将ヒディンクがモウリーニョの後任を引き受けた理由 (4ページ目)

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper  森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki

 ただ、この6年ほどに相次いだ失敗は、ヒディンクがチェルシーのオファーを受けた理由にもなる。フットボール界での半世紀近くに及ぶキャリアを、ヒディンクはすっきりしない思いのまま終えたくなかったのだ。チェルシーでの5カ月限定の仕事は、完璧なフィナーレをもたらしてくれるかもしれない。

 まずヒディンクは、スタンフォード・ブリッジでの仕事の環境が気に入っている。ロシア人富豪でチェルシーのオーナーであるロマン・アブラモビッチが、10年近く前にヒディンクをロシア代表監督に誘ったとき、ヒディンクは彼のことがすぐに気に入った。ふたりには、物静かで控えめという共通点がある。

「とても静かな人だ」と、ヒディンクはアブラモビッチを評していた。「目立とうなんて気は、まるでない。ジーンズをはいて、ごく普通の腕時計をしている。いや、あれは普通以下だな」。当時ヒディンクが監督を務めていたPSVアイントホーフェンに、アブラモビッチが彼を訪ねてやって来たとき、クラブのカフェテリアを運営していた男性は、ジーンズ姿の人物が誰なのか気づかないまま、ふたりと一緒にお茶を飲んでいた。

 チェルシーの今回の仕事で、もうひとつヒディンクにとって都合がよかったのは、他の大物監督なら受け入れていなかったはずの条件だ。5カ月間だけの暫定監督という点である。

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