川崎フロンターレのホーム等々力陸上競技場は毎回2万人が集まる「劇場」 球技専用への改修に注目 (4ページ目)
【球技専用への改修に注目】
ヴェルディに代わって等々力をホームとしたのが、富士通サッカー部を母体とする川崎フロンターレだった。
富士通は第2次世界大戦前から川崎市中原区に工場を持ち、現在も同地に本社を置く地元企業だ。JSL時代は2部での活動が長く、Jリーグ発足後は旧JFLを舞台に戦っていたが、「川崎フロンターレ」となって1999年にはJ2リーグに加入。2000年にJ1に昇格。1年でJ2に降格したが、2005年に再昇格してからは着実に強化を続け、2017年にJ1リーグ初制覇。以後、J1で4度の優勝を飾ることになる。
川崎のJ1初制覇を前に、2015年には等々力陸上競技場全面改修の「第一期整備」として近代的なメインスタンドが完成。そして、2021年には「第二期整備」として球技専用スタジアムとしての整備も決定した。
2002年の日韓W杯を前に、日本でも大規模スタジアムがいくつも建設された。だが、その多くは陸上競技との兼用スタジアムだった。しかし、2016年に完成したパナソニックスタジアム吹田を皮切りに、西日本では球技専用スタジアムが次々と整備されており、2024年だけでもエディオンピースウイング広島や長崎スタジアムシティ(PEACE STADIUM Connected by SoftBank)などが完成している。
これに対して、強豪クラブが数多く存在する東日本では大型の専用スタジアムは埼玉スタジアム2002や県立カシマサッカースタジアムなどわずか。国立も、味の素スタジアムも、日産スタジアムもいずれも陸上競技場だ。
今からちょうど100年前の1924年に、東京には明治神宮外苑競技場(国立競技場の前身)、兵庫県には甲子園大運動場(現在の甲子園球場)という日本初の大規模スタジアムが完成しているが、前者は国(内務省)による建設だったのに対して、後者は民間企業である阪神電鉄によるものだった。そして、それから100年経った今でも、西日本では民間資本によるスタジアム建設が主流なのに、東日本のスタジアムは国や地方自治体によるものばかり。それが、専用スタジアムが少ない理由となっている。
その点、等々力の改修には民間資本が導入されることが決まっており、すでに東急が中心となって富士通やフロンターレも出資した企業が落札。東日本初の民間資本によるスタジアム整備となる。これが成功すれば、東日本でも専用球技場の整備が進む可能性もある。等々力の改修にはぜひ注目してほしい。
著者プロフィール
後藤健生 (ごとう・たけお)
1952年、東京都生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。1964年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、1974年西ドイツW杯以来ワールドカップはすべて現地観戦。カタール大会では29試合を観戦した。2022年12月に生涯観戦試合数は7000試合を超えた。主な著書に『日本サッカー史――日本代表の90年』(2007年、双葉社)、『国立競技場の100年――明治神宮外苑から見る日本の近代スポーツ』(2013年、ミネルヴァ書房)、『森保ジャパン 世界で勝つための条件―日本代表監督論』(2019年、NHK出版新書)など。
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