「結局、勝つ=守れることだ」FC町田ゼルビア・黒田剛監督の青森山田時代から変わらないサッカー哲学 (2ページ目)

  • 篠 幸彦●取材・文 text by Shino Yukihiko

【チーム作りは青森山田の時と変わらない】

――そうした町田のサッカーをネガティブに捉える人たちもいました。

 球際が厳しくて、荒く見えたかもしれない。サッカーの綺麗なところだけを見ようとする人たちは、おそらくパスを綺麗に繋ぐとか、オン・ザ・ボールのところを言及してくると思うんですね。

 だからそこに対して厳しくアプローチされると、汚い、ダーティーだとか、そういう見方になるんです。相手にそれをさせないこともサッカーなんですよ。ただ、そう見えてイエローカードの枚数はリーグでも少ないほうなんです。

 それで高い位置でボールを奪ってゴールに近づいていく。またはフィニッシュまで一気に持っていくという思考を持たないと、このJ2リーグを勝ち抜くのはかなり難しいと思います。それは逆に世界で求められている思考にすごく近いものだと思うんですよね。

 ブラジル代表はすごく上手なポゼッションを見せますけど、彼らほどショートカウンターの速いチームはないと思っています。しかも球際はもっと激しいですよ。世界のサッカーはその術をみんな知っていますよ。

 だから綺麗なところばかりを見て理想的なサッカー云々というけれど、そうではないと思っています。日本全体のサッカーファンの考え方、見方がもっと向上していかないと、サッカー文化はなかなか世界に追いついていかないと感じますよね。

 どんなサッカーだってあっていいし、いろんなサッカーがあるからこそ楽しいし、面白い。要するにお互いに勝つためにやっているわけで、そこが世界と日本でかけ離れている大きな違いと感じています。

――この1年で監督のなかで変化したことはありましたか?

 1年通してやってきた勝つためのチーム作り、組織作りは、青森山田でやってきたこととそんなに変わらないんですよね。

 選手、スタッフだけでなく、フロントも含めて、全員が勝利のために全力で頑張ってくれる、サポートしてくれる。勝った時は肩を組んで喜び合い、負けた時は悲しい思いも共有できる。それこそが負けない、勝ち続ける組織だと思うんです。まさにワンチームです。

 だから監督が独りよがりで頭でっかちになって「俺の言っていることを聞け」というのは一番嫌いなんですよね。常に柔軟性を持ってみんなの提案を吸い上げることが重要です。

 私が全体を総括しつつ、トレーニング1、2は誰がやって、ウォーミングアップは誰がやって、メディカルは誰がやるとか。いろんなセクションでそれぞれが責任を持って徹底してやっていく。すべてを監督がやる必要なんてない。そういった意味で組織として一つ大きなものを確立できたシーズンだったと思います。

――コーチングスタッフの今シーズンの貢献をどう感じていますか?

 私が町田の監督をやるにあたって、まず一緒にやろうと思ったのが金明輝(キム・ミョンヒ)でした。彼のことは高校時代からよく知っていました。

 彼はJ1で監督をやっていて(前サガン鳥栖監督)選手のことをよく知っているし、どれだけ監督として奮闘していたかもわかっていました。自分の成長にもつながると思っていたので、彼をヘッドコーチとして置いてスタートしたいと考えていましたね。

 また、彼だけではなく、柏レイソルユースでやっていた山中真やFC岐阜やファジアーノ岡山のアカデミーでやっていた三田光、青森山田中学で監督を務めていた教え子の上田大貴など、みんなを指導者として深く知っていました。彼らは育成畑でやってきてきめ細かく選手たちにアプローチできるし、そういったことを指導の理念としてきたコーチたちです。

 それが非常に機能していたと思います。プロかぶれしているような人は一人もいないし、私が求めるものを理解して共有できたことは、今シーズンの町田の組織において大きな役割を担ってくれたと思っています。

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