大迫勇也はなぜボールが収まるのか ハンパなかった今シーズンを鄭大世が解説 (5ページ目)

  • 篠 幸彦●取材・文 text by Shino Yukihiko

【ポストプレーへの信頼で神戸のプレーに勢い】

 大迫選手は華奢な上半身をしているのに、あれだけボールを収められるというのはもともとのテクニックの高さはもちろん、受ける前のポジショニングセンスが抜群で、背負う相手を抑える技術が高く、横にずらしながら次のプレーに繋げるのがうまいからです。

 正直、あれだけFWがボールを収めてくれれば、監督の仕事はほぼなくなるんですよ。相手はボールを奪われた瞬間に、まずFWへの縦のパスコースを切りにくるわけです。そこで周りの選手が動いて別のパスコースを作ってあげるというのが基本なんですけど、そこで一本のロングボールが通ってしまえば、これほど楽なことはない。

 一本のパスでポストプレーが成功すれば、他の選手がそれほど動かなくてよくなるので全体の体力的にも相当助かります。

 大迫選手のハイレベルなポストプレーが前提としてあることで、彼にボールが入った瞬間の周りの選手の動き出しが非常に速いところも、神戸の特徴だったと思います。相手DFと五分五分のボールであっても「大迫なら収めてくれる」という信頼のもと、周りがより速く、迫力を持って動き出せばチームの勢いはより生まれるものです。

 今季、神戸が優勝できたのは、運が良かった部分もあったと思います。横浜F・マリノスや川崎フロンターレが、昨季ほど調子が上がらず、神戸のようなカウンタースタイルがハマりやすいトレンドだったのもその一つです。

 ただ、その運を味方につけるくらい、絶対的なエースを最大限に生かすスタイルを確立した。エースをチーム全体で生かせるメンバーや環境が整い、シーズンを通して徹底してやり通せた。それが初優勝を掴めた大きな要因で、今季のMVPは文句なしに大迫選手だと思います。

鄭大世 
チョン・テセ/1984年3月2日生まれ。愛知県名古屋市出身。朝鮮大学校から2006年に川崎フロンターレに入団し、FWとして活躍。2010年からはドイツへ渡り、ボーフム、ケルンでプレー。その後韓国の水原三星、清水エスパルス、アルビレックス新潟、FC町田ゼルビアで活躍し、2022年シーズンを最後に現役を引退した。北朝鮮代表として2010年南アフリカW杯に出場している。J1通算181試合出場65得点、J2通算130試合出場46得点。

プロフィール

  • 篠 幸彦

    篠 幸彦 (しの・ゆきひこ)

    1984年、東京都生まれ。編集プロダクションを経て、実用系出版社に勤務。技術論や対談集、サッカービジネスといった多彩なスポーツ系の書籍編集を担当。2011年よりフリーランスとなり、サッカー専門誌、WEB媒体への寄稿や多数の単行本の構成を担当。著書には『長友佑都の折れないこころ』(ぱる出版)、『100問の"実戦ドリル"でサッカーiQが高まる』『高校サッカーは頭脳が9割』『弱小校のチカラを引き出す』(東邦出版)がある。

5 / 5

関連記事

キーワード

このページのトップに戻る