清水エスパルスはなぜ、目の前にあったJ1昇格を逃したのか「何かを変えなければ、ずっと同じことが繰り返される」 (3ページ目)
重要な試合で不安定な戦いが続いたのは、ミスだけでなく、戦術がないことも影響していると思われる。
「戦術・乾」と称されるように、清水は乾を軸とした個々の能力と感覚を重視した攻撃が主で、確固たる戦術が確立されていない。そのため、その日の乾ら主力の出来によって、攻撃の威力、迫力が左右される。
結果、7-1と圧勝した第39節のいわきFC戦のようにゴールを量産する時もあれば、思うような形を作れずに攻撃が手詰まりになって、点が奪えないままドローになる試合もあった。
もしチームとしての戦術が確立されていれば、仮に悪い状態になっても、そこに立ち戻ることで、足並みが乱れてしまった選手たちも、見失った自分の役割を理解し、プレーすることで自信を回復できただろうし、チームとしての統制も図れていたことだろう。
熊本に負けたあと、清水の選手たちには立ち戻るべき拠り所が必要だった。乾が「今季一番悪い試合」と言った最終節の水戸戦は、勝てばJ1昇格というプレッシャーがかかるなか、ミスが続出して1-1で勝ちきれなかった。プレーオフ準決勝のモンテディオ山形戦も攻めきれずに0-0に終わった。
この2試合を終えて、多くの選手が嫌な感覚を覚えたはずだ。点が取れない、勝ちきれない、という不安を抱えながらプレーオフ決勝に挑んだのではないだろうか。
乾は「(選手全員)ビビっていることはなかった」と言った。だが、1-0のまま推移していくなかで、清水の選手は自分たちの勝利をどのくらい信じきれていたのだろうか。ラストにPKを与えたシーンについてDF高橋祐治は「もう少し周囲の状況を見て判断すればよかった」と語っていたが、チームに内包する焦りや不安があのプレーを誘発させたように思えてならない。
「見てのとおり。何も勝ち得なかった。何回、負けて泣いてんだ。負けて泣くんじゃねぇってことです。我々はプロだから勝ち取らなければ、何も意味がない」
J1昇格を逃した秋葉監督は、少しばかり怒気を込めた強い口調でそう言った。
結局、大願は果たせなかったものの、下手をすればJ3降格の可能性すらあったチームを昇格争いまで押し上げた手腕は評価されるべきだろう。ただ、その先を越えるチームをデザインする力がもうひとつ足りなかった。
「サポーターには感謝の気持ちしかないです。それに、プロとして応えられない。まだまだぬるくて甘いんだろうなって思っています。何かもっと根本的に、僕を含めて何かを変えていかなければ、ずっと同じことが繰り返される」
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