横浜F・マリノス、涙の劇的勝利で首位奪取 アディショナルタイムの2ゴールが生まれた理由 (3ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 藤田真郷●撮影 photo by Fujita Masato

 マルコス・ジュニオールが左からエリア内に折り返すと、それを受けた宮市が渾身の右足を振る。ボールは相手に当たってぼてぼてと転がりながら、ゴールラインを割った。スタジアムが弾けるように沸騰した。

「いろんな人の想いが乗っていたからこそ、入ったゴールだったと思います。すごい回転で、僕の力ではもうどうしようもなく......。時が止まって、(昨年7月の右膝前十字靭帯のケガからの)リハビリが走馬灯のように感じられて、本当に現役を続けてよかったと思いました。誰かを喜ばせるゴールを決められて、そういう職業っていいなって」(宮市)

 終盤の猛攻は、神がかっていた。冒頭、喜田が振り返ったように、人々の感情が爆発し、それが渦となった。スタジアムの熱気に、選手が突き動かされていた。これが王者の真価だ。

 もちろん、修正すべき点がないわけではない。自ら戦いを難しくしていたところはあった。

「もっとできるチームだ」

 ケヴィン・マスカット監督も選手に伝えたようだが、それは自身の采配も含めてだろう。

 しかし、胸が熱くなる逆転勝利は、選手に問答無用のパワーを与える。王者は、土俵際での強さを改めて証明した。神戸がセレッソ大阪に敗れたことで、代表戦中断前に暫定首位に立った。

 後半戦に向け、横浜FMが帆を高く上げた。

プロフィール

  • 小宮良之

    小宮良之 (こみやよしゆき)

    スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。

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