ヴィッセル神戸の「戦術=大迫勇也」 バラバラなチームを「ピン留め」して首位攻防戦を制す (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • photo by Kyodo news

【その技術は今や無双状態】

 24分、大迫は中盤に下がってボールを受けると、スキルとビジョンの差を見せつける。うまく体を使い、ボールを然るべきところに素早く置くと、右サイドの武藤嘉紀を見つけ、絶妙なミドルパス。武藤は倒されてしまい、PKの笛は鳴っていないが、相手の足を止めるジャブになった。

 バラバラのチームを"ピン留め"するような大迫のプレーは効果的で、戦術を牽引した。彼がボールに触るたび、神戸は息を吹き返す。それによって、広島の一方的な展開を遮っていた。

 42分、大迫はGK前川のパントキックをディフェンスと競り合う。これは収めきれなかったが、こぼれ球を味方陣内からクリアに近いパスで放りこまれると、マーカーに密着させられながら、巧妙なフリックで味方に通し、チャンスに結びつける。ここまでくると、神がかりである。ほとんど何もないところから好機を作ってしまうのだ。

 そして後半開始直後だった。味方のカウンターに対し、大迫はやはり中盤に下がってプレーメイク。右サイドの武藤へパスを通すと、折り返しのクロスは際どかった。相手ディフェンスがクリアしきれず、オウンゴールになっている。

「(先制点を呼び込めたのは)チームとしてゼロで耐えしのげたのが大きいと思います。厳しい試合でしたが、底力を見せることができたかな、と」(神戸/初瀬亮)

 先制点を決めたものの、神戸は優勢に転じたわけではない。守備はチーム全体のデザインが弱いだけに何度も入れ替わられ、危険なエリアに入り込まれる。ラインブレイクされ、際どいクロスも入り、何度かはシュートにもつなげられた。ことごとく決まらなかったのは、追う立場になった広島が勝手に焦ったからだろう。

 そしてアディショナルタイム、右サイドに流れた大迫は三方を敵に囲まれながら、見事なボールキープからパスを通す。武藤の追加点を演出した。長年、ブンデスリーガで研鑽を積み、ワールドカップの舞台でも見せつけた技術は出色だった。一昨シーズン、Jリーグに戻った頃はコンディションが整わず、著しく衰えたように見えたが、今や無双状態である。

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