サガン鳥栖の改革はここから始まった。SDが語る「降格候補」からのシンデレラストーリー (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • photo by J.LEAGUE/J.LEAGUE via Getty Image

【開幕戦から「正面からぶつかる戦いを」】

「自分のラジオにもゲストで出てもらって、とにかく言葉選びが面白いし、頭がいいなって思いました。その後、2021年シーズン、健太さんが山形でコーチだった時も気になり、関係者に聞くと『すごくいい』って。鳥栖の強化に入ることになった時、まずは新監督を決めるのが大きな仕事のところで、いろんな候補の名前が挙がりましたが、自分のなかでは健太さん一択でした」

 当然、周囲の不安はあったという。「J1での経験はないが、大丈夫か?」という心配は聞こえたし、「誰ですか??」という選手もいた。そもそもシーズンを前に20人近い選手が出ていって、前評判も「降格圏」だった。しかし小林は、キャンプに入ってすぐに手応えをつかみ、開幕の広島戦で確信に変わったという。

「広島戦は緊張しました。現役時代のデビュー戦を思い出しましたよ」

 小林SDはそう言って笑みをもらす。

「結果は、キャンプからやってきたことが出たなって。難しい条件が重なったなか(アウェー、大雪、多数の欠場選手)、選手たちがよくやってくれました。試合前の監督の演説は泣きそうで、こんな監督のもとでプレーしてみたかったですよ。引き分けでしたが、なんで勝てない、でも、なんとか勝ち点を拾った、でもない試合で、方向性を示せました。"1年間は置きにいかず、正面からぶつかる戦いを"というスタートを切れました」

 そして強化の予想を上回るスピードで、チームは進化を遂げた。

「今までと評価がガラリと変わった選手が多いですね。他のクラブからいっせいに標的にされるくらいに」

 小林は言う。J1で定位置を奪えず、J2でどうにか踏ん張っていたような選手からセレクトしたが、小さなシンデレラストーリーになった。

「健太さんを軸に、選手たちがどんどん変わっていきました。たとえば(西川)潤は最初、覚悟が決まっていないな、という感じが見えていたんです。それが数カ月ですごく変わった。交代出場で20、30メートルを追いかけ、全力でスライディングタックルをするなんて、これまでの彼では考えられなかった。(第33節の)湘南(ベルマーレ)戦でも、相手からボールを取り返してファウルを受けてPKというシーンがあって、『ドリブルで仕掛けてPKはあっても、これはなかっただろ?』と言いました」

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