サガン鳥栖の下部組織が快進撃の理由。バイエルン移籍の福井太智を育てた土壌とは (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • photo by YUTAKA/AFLO SPORTS

【ハード面の充実、アヤックスとの提携】

 転機はあった。

「(2014年、佐賀市に)ユースの(クラブハウスも含めた)練習場を、行政の協力もあって作ってもらえたんです。それまでは練習場を借りても、各年代の練習が被って、ナイター設備もなく、発電機で照明にしていました。それでは選手を誘いにくかったんです。2017年にトップに昇格した田川亨介(現サンタ・クララ)や石川啓人(現レノファ山口)は当時の一期生なので、ハード面の充実は大きいですね」

 2018年には、名門アヤックスのアカデミーと提携。積極的に人材を送り込み、その理論やメソッドを取り入れ、アレンジしていった。育成における知見は厚みを増した。福井も、そのプロセスで成長してきた人材だ。

「(福井)太智はセレクションで入ってきて、小さくてポチャッとした子供でした。ただ、とにかくキックにパンチがあって、武器は明確に見えましたね」

 佐藤は小4で鳥栖に入ってきた福井を、当時はU-12の監督として指導していた。

「太智は4年生でしたが、6年生に混じって試合に使っていました。決起会で『全国(全日本サッカー)に連れて行ってください。お願いします』って言ったことがあって、当時から自分を昂らせて、目標に向かうところはありました。そして全国に行って、彼自身もゴールを決めています」

 豪胆な少年は、バイエルンのセカンドチームでのトライアルでも、身振り手振りでコミュニケーションをとり、自然とボールが集まっていたという。鳥栖で磨かれたテクニックは、十分に通用した。彼のバイエルン移籍はアカデミー全体でも、ひとつの快挙だ。

「もし自分が指導者じゃなかったら、太智はもっといい選手になっていたんじゃないかなって思っています」

 そう語っていたのは、現在、鳥栖のU-18を率いる田中智宗監督だ。佐藤監督からバトンを受けるように、福井が中2の時から指導してきた。

「太智は左右のキックが蹴れます。周りが見られるので、ぎりぎりのタイミングでプレーキャンセルもできて、選択を変えられる。さばきがうまくてプレーメイクができるんですが、育成年代のいいボランチはゴールに絡めることだと思うので、あえて4-3-3のウィングのようなポジションでも使いました」

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