サガン鳥栖の下部組織が快進撃の理由。バイエルン移籍の福井太智を育てた土壌とは

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • photo by YUTAKA/AFLO SPORTS

 沈みかけた太陽の光が、西の空を濃淡のある赤色に染めていた。照明に灯がともって、人工芝のグラウンドが鮮やかな色を放った。辺りでは、きびきびと挨拶を交わす声があちこちで響いていた。すぐ近くにある寮から、自転車で少年たちが一斉に到着したようだった。クラブハウスの脇では、トップ昇格が決まった18歳の竹内諒太郎がテレビの取材を受けていた。

 サガン鳥栖の下部組織は、今や名声を誇る。樋口雄太(鹿島アントラーズ)、松岡大起(清水エスパルス)、大畑歩夢(浦和レッズ)などを輩出。鳥栖でも本田風智など、数多くがトップチームに昇格している。

 2017年に高円宮杯U-15で初めて全国を制覇し、進撃は始まった。2020年、2021年と見事に連覇。2019年には本田を擁し、全日本クラブユース選手権(U-18)で準優勝し、2020年には現トップチームの中野伸哉などを擁して優勝を飾った。タレントは続々と湧き出て、2022年シーズンは高円宮杯U-18プレミアリーグ決勝戦で、U-18川崎フロンターレを3-2で下し、日本一に輝いた。そのユースからは4人のトップ昇格が決まっている。

昨年12月、高円宮杯U-18プレミアリーグを制したサガン鳥栖の選手たち昨年12月、高円宮杯U-18プレミアリーグを制したサガン鳥栖の選手たちこの記事に関連する写真を見る 高円宮杯の優勝で殊勲者になった福井太智は異例だろう。小学校4年生から鳥栖のアカデミーに入って、18歳でバイエルン・ミュンヘンからのオファーを受け、今春、移籍することになった。誘いを受けてトライアルに参加し、2日後にはクラブに正式オファーが届いたというが、目の肥えたバイエルンスカウトも魅了する実力だった。

 鳥栖の育成は世界からも注目の的になったのだ。

「最初は、『トレーニングマッチをお願いします』と言っても、なかなか相手にしてくれなかったほどです」

 鳥栖のアカデミーダイレクターを務める佐藤真一は言う。佐藤はセレッソ大阪、鳥栖でプレーした後、2000年から育成年代の指導者に転身した。そして現場での経験が評価される形でダイレクターになった。

「現場はずっと、"勝ちたい、優勝したい"と思ってやってきました。勝ち続けることで、何か変わるんじゃないかって。特別なことをやったわけではなくて、スタッフも選手も妥協せず、1本のパスにもこだわってきた結果だと思います。ステップアップの場に利用するのではなく、みんなが"鳥栖をよくしたい"という思いで挑んできて、『選手を獲る』というスカウティングには力を入れました。それもスタッフの熱意が大きく、自分たちの試合後には他の試合にも足を運んで、少しずつ変わってきたんだと思います」

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