宮市亮、水沼宏太、西村拓真...それぞれの涙に、横浜F・マリノス優勝の理由があった (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • photo by Kyodo News

全得点に絡んだ水沼宏太

「選手が硬くなるのはわかっていたので。"キーパーはどんと構えて"と思っていました。選手はすぐにアジャストしましたし、その対応力も今シーズン、身につけたことかなと思います」(高丘陽平)

 前半7分、横浜FMは決定機を迎える。岩田智輝が強烈なミドルを放つと、ポストを叩く。跳ね返りに水沼がすかさず反応し、ゴールに向かって蹴り込み、GKともつれたところでアンデルソンロペスが押し込んだかと思われたが、VAR判定で取り消された。審判はこれに6分もの時間を要する不手際で、誰よりもこの一戦に緊張していたかもしれない。

 これで試合のリズムがやや緩慢になったが、26分、水沼が右から鋭い球筋のクロスを送る。相手は後ろ向きでのクリアが精一杯。中途半端にエリア内でバウンドしたボールをエウベルが頭で決めた。

 その後も横浜FMペースだったが、追加点を決められず、アディショナルタイムにツケを払うことになる。

 神戸は大迫勇也、武藤嘉紀、酒井高徳など、W杯日本代表経験者を先発に揃え、ベンチにはアンドレス・イニエスタも擁していた。戦力的にはJリーグ屈指。チームの方向性が見えなくても、一発があった。前半終了間際、右サイドで酒井がボールを持った時、下がってから左足でクロスを送る。守備を崩してはいなかったが、アーリークロスは完璧なタイミングと軌道で、それに武藤がヘディングで合わせ、同点弾を決めた。

 ただし、横浜FMも選手の顔ぶれでは負けていない。アンジェ・ポステコグルーが植えつけたスタイルも土台にある。つまり、本来のプレーができたら、負ける相手ではなかった。

 停滞しかけた攻撃に火をつけたのは水沼だ。

 後半8分、左サイドで得たFKを水沼が蹴る。壁一枚の守りに対し、抜け目なくニアサイドに際どいシュートを打ち込むと、敵GKがはじくが、こぼれた球を西村が鮮やかに蹴り込んだ。

 水沼は今シーズンのJリーグMVPに値する活躍を見せた。右サイドを中心にプレーリズムを変化させ、決定的クロスを送った。その精度はJリーグトップ。スピード、パワーに利点が出るアタッカーが多くなった陣容で、緩急をつける"気がきく"プレーは異彩を放った。32歳で日本代表に初選出されたのも当然だった。

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