サッカー中継が面白くなる「気持ちいい実況」とは? 噂のアナウンサーを直撃してみた (4ページ目)

  • 池田タツ●取材・文 text by Ikeda Tatsu
  • photo by Getty Images

解説者たちの変化

――下田さんはJリーグだけではなく、海外サッカーも実況されていますが、日本と、海外サッカーの違いを感じることはありますか?

「見えてくる図形的なものが違いますかね。ヨーロッパのほうが集団性を強く感じることが多いです。たとえば、マンチェスター・シティ対チェルシーなら、ペップ(・グアルディオラ)と(トーマス・)トゥヘルだから、全体がどうなるかなんとなく図形をイメージできます。ヨーロッパでは、11対11が同時性を持って動いている印象が強い。

 でもJリーグだと、その部分がやや曖昧に見えることが多いです。個人の感覚でプレッシャーをかけに行ったり、ボールを動かしたりする事象が、もしかしたらJリーグのほうが多いのかなという印象はあります。

 でもそれは良し悪しで、尊敬する指導者の風間八宏さんが『"形"でサッカーをやっても面白くない』っておっしゃるように、見ている人、語る人、あるいは教える人の価値観によって、同じ事象でも捉え方は違ってきますから何とも言えません。なのであえて違いを見つけるとすれば、11人の同時性とか、俯瞰で見えてくる絵面とかになるのかなと思います」

――最後に一緒にやられている解説の方のお話も聞きたいのですが、「戸田(和幸)さん前、戸田さん後」というくらい、日本のサッカー解説が大きく変わったと感じています。下田さんはどのように感じていますか?

「おっしゃるとおり、戸田さんの出現と、彼が投げかけたものはものすごく影響が大きかったと思います。戸田さんが指摘しているのは、『ナイスパスですね』は感想であって解説ではないと。チームとして行なっていることのなかで、なぜそれがナイスパスなのかを瞬時に説明するのが解説のはずだと。

 また彼は指導者としての自分を高めるために、徹底的に試合を見て、同時に世界のささまざまな戦術や戦略に関する情報をどん欲に収集し、そういった要素を中継のなかで前のめりに反映するので、視聴者が解説者に期待することの敷居が一段も二段も上がったように感じますね。

 新旧問わず解説者の意識レベルを上げるという意味で、戸田さんがやったことはとても意味があったと思います」

――今後、解説はどのように変わっていくかとか、もし感じていることがあれば教えてください。

「あるとすればハイブリッド型ですかね。戦術や戦略的な部分により深く踏み込んだ目線でのコメントと、その解説者ならではの〝感性に沿った感覚的な話〟とか〝その人ならではの技術的な解釈〟とか、そういう要素を併せ持った解説。この領域までくると、我々実況アナウンサーが瞬間、瞬間に対応しなければいけないことが大幅に増えるので大変ですけどね(笑)」

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下田恒幸
1967年生まれ。東京都町田市出身。小学生時代に在住していたブラジルで出会ったラジオのサッカー中継がきっかけで実況アナウンサーを志す。1990年仙台放送入社、2005年からフリー。主にサッカー中継(Jリーグ、欧州主要リーグ)を担当している。W杯南アフリカ大会の日本×カメルーン戦、本田圭佑と長友佑都が対決したミラノダービーを現地中継。CL決勝を3度、EL決勝を5度担当するなど経験豊富。サッカー以外の競技の実況にも対応する。

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