サッカー中継が面白くなる「気持ちいい実況」とは? 噂のアナウンサーを直撃してみた (2ページ目)

  • 池田タツ●取材・文 text by Ikeda Tatsu
  • photo by Getty Images

一緒にプレーしている感じ

――ある試合のデータを取っていた時に、下田さんはボールが渡った瞬間に選手名をベストなタイミングでコールしているのがわかりました。そして守備に行った選手、ファールした選手の名前もコールしてくれるんです。下田さんの実況が気持ちいいと言われる理由は、選手がわからなくなることがなくて、見ていてストレスがないからなのかなと。

「そんな風に自分の実況が役立っていたんですね(笑)」

――これは視聴者が選手を覚えやすくなるので、本当にすばらしいなと感じました。下田さんはどの試合でも、シルエットで選手を一瞬で判断できているのがすごいなと。

「判別する材料はシルエットだったり、靴の色だったり、フォルムだったり、姿勢だったり、もちろん背番号も含めて、ですね。で、試合が始まったらまず全体を俯瞰して立ち位置を確認します。そこから先は、事前に試合を見て情報を目に焼きつけてあるので、個人だけでなくチームとしての動きをある程度予測しながら喋るという感じです」

――選手の名前を毎回しっかりタイミングよくコールしてくれるというのは、ブラジルのラジオの影響でしょうか?

「間違いなく、そうです。ラジオは映像がないので。実際にオン・ザ・ボールの時に毎回タイミングよく言っているかどうかはわかりませんが、基本的には選手の名前とプレーの種類が頻繁に出てきます。あとは右か左かとか簡単なポルトガル語しか知らなくても、実況者の音の抑揚のつけ方とか喜び方で何が行なわれているか大体わかるんですよね。そこは自分が実況する上で常に意識している部分です。

 ブラジル人の実況アナウンサーって言葉で一緒にフットボールしちゃう感じなんですよね。そのためには、オン・ザ・ボールの時にジャストで選手名を言わないと、一緒にプレーしている感じにならない。それは、実はサッカーだけでなくバスケットボールやバレーボールでも同じです。オン・ザ・ボールの時にしっかり音を合わせてあげると、多分聞いていて一番気持ちがよい。動きのあるスポーツを実況する時に共通する要素だと思います。

 たとえばモドリッチがボールを持った時に『モドリッチ』と言えるかどうか。でもボールを離してから『モドリッチ』とコメントする実況がほとんどだった。少なくとも私が独立してフリーになった頃はそうでした。じゃあ、ボールを受けた瞬間に名前を言えるようになるには、どうしたらよいか。モドリッチがボールを受けるタイミングをある程度予測できてないといけない訳です。そのタイミングの予測があってこそ、オン・ザ・ボールに名前が乗っかるようになるのかなと思います。自分が実況する時に最も意識しているのはそこですね。ポルトガル語を完全に理解できていたわけではないですが、当時の僕にはそういう風に聞こえていました(笑)」

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