中村憲剛に佐伯夕利子が希望。日本サッカーのため、海外に出て、いいところもダメなところも見てほしい

  • 二宮寿朗●取材・文 text by Ninomiya Toshio
  • 熊谷 貫●撮影 photo by Kumagai Tsuranuku

「シャレン!」活動は世界に自慢できる

中村 話をJリーグの社会連携活動である「シャレン!」に移したいと思います。佐伯さんはここに相当な感銘を受けたそうですね。

佐伯 はい。それこそ欧州は社会貢献がすごく盛んだと思われがちですけど、実はお金や物資の提供をしているだけのところが多いんです。翻ってJリーグのホームタウン活動や「シャレン!」活動ってヒューマンリソースを出してやっているじゃないですか。こんなことをやっているプロリーグって私は聞いたことがない。「シャレン!」はJリーグが世界に最も自慢ができることです。あとはマスコット(笑)。

 でも、少し残念なのは、選手のプレゼンス(存在感)がまだ少ないってこと。このことは憲剛さんにも言いましたよね。「どうして選手たちは、やろうとしないの」と。憲剛さんは現役時代、誰よりも率先してそういった活動やってきた人だから、ここはしっかり受け継いでほしいですよね。

中村 僕は出たがりで、人との繋がりが好きなところもあったので(笑)。

佐伯 いやいや、本当にすごいと思います。欧州では選手のことはやっぱりアンタッチャブルなところがあって、なかなか引っ張り出せないです。日本でもそういうところはあるんでしょうね。

中村 コロナ禍が拍車を掛けた部分もあるはずです。それでも、できることって多分あると思うんですよ。川崎フロンターレに入った当時、先輩たちが一生懸命やっていて、それを見ていたから僕も自然とこれはやらなきゃいけないと思いました。だから、コロナ禍だから「やらなくていい」みたいな雰囲気になるのが怖いと思っています。実際、「シャレン!」のことを知らない選手も少なくないと思うんですよ。知ってほしいし、どんどん参加してほしいって心から思います。その一方で、選手がちゃんと出て、マスクをつけて、地域の方と触れ合って活動しているクラブもあります。

佐伯 こういった活動は選手のためでもあるんですよね。

中村 はい。誰から力をもらっているのかが地域の方たちと触れ合うことでダイレクトに伝わってきますから。可視化ですね。地域の方たちだって同じです。自分のところに選手たちが直に来て、活動を通して「応援よろしくお願いします‼」と言われたら、その選手やチームのことが気になってしまうじゃないですか。これも可視化ですよね。そうして、ファンやサポーターがひとりずつ増え、その方たちが観に来た試合がとてもエキサイティングな試合だったり、試合前のイベントが楽しいものだったらリピーターになってまたスタジアムに足を運んでくれるかもしれない。そういう関係性が生まれるから、選手が直接参加したほうが絶対にいいんですよ。

佐伯 憲剛さんはプロになって、その大切さに気づいたと?

中村 そうです。大学のときには社会とのつながりなんてほぼ考えてなかったです(笑)。でもフロンターレに入って、地域のみなさんと触れ合って多くのことを学ばせていただきました。地域それぞれに課題があるとは思うんですけど、選手が参加して多くの人を巻き込むことで少しでもその課題の解決に近づけるかもしれない。僕はその経験をしているからこそ、多くのJリーガーにも経験してもらいたいという思いが強いんです。

佐伯 クラブの方に聞くと、選手を引っ張り出してきて「シャレン!」活動やホームタウン活動をするのはハードルが高いと言うんですよ。もちろん選手に対するリスペクトは絶対に必要です。でも、神様のように扱ってはならないと私は思う。なぜなら、彼らがそれで幸せにならないからです。勘違いさせてしまうだけ。そのような事例は、欧州でいっぱい見てきています。

中村 同感です。

佐伯 クラブによって温度差はあるし、そのときの監督の意向だってあるでしょう。ただ、選手が社会のため、地域のためと思って活動することがJリーグの発展につながっていくということをわかってほしいですよね。

中村 いま全クラブ合わせて年間に2万5000回くらいのホームタウン活動をやっているんですよね。これは本当にすごい数字だと思います。

佐伯 はい。そして、持続的な活動として成り立っていくには、企業がどれだけ関わってくれるかもカギになると思うんですよね。たとえばスペインでは、200名以上の従業員を抱える企業は、非財務価値の年間報告書を公開しなければならないという決まりがあるんですね。企業は自分たちだけでは、マンパワーがないからサッカー協会、リーグ、クラブなどと一緒に何かタイアップしよう、となります。お金や物資を提供する慈善活動などがそうですね。もし企業がもっと積極的に関わるようなサイクルが日本にも生まれてくるなら、「シャレン!」は一気にムーブメントを起こすんじゃないかな、と思っています。

中村 現役時代の2019年、等々力で行われたフロンターレ対大分トリニータのリーグ戦に、フロンターレとJリーグ、そして複数の企業、自治体のみなさんとみんなで手を取り合って、発達障がいのある子どもたちと親御さんをスタジアムにセンサリールームを作ってご招待したんです。そして試合翌日には川崎フロンターレの練習場のある麻生グラウンドで、その試合に出ていたメンバーが前日観に来てくれた発達障がいのある子どもたちとのサッカー教室に参加しました。

 その時の子どもたちの楽しそうにサッカーをする表情や姿は今でも覚えています。終わったあとに子どもたちが手紙を書いてくれたんですが、心が奮える体験になりました。アスリートの価値をそういったところでも強く感じることができたんです。子どもたちも選手も、そして企業もみんなハッピーになりました。佐伯さんがおっしゃられるように、企業のみなさんがJリーグやJリーガーの価値を知り、もっと積極的に絡んでくれたら、もっといろんなことがやれるはずですよね。

佐伯 試合に出ていた選手が次の日に自分たちと一緒にボールを蹴ってくれるわけだから、子どもたちにとってそれはもう一生の思い出になります。

中村 あとは自治体のみなさんとも今以上にうまく関わっていきたいですよね。Jリーグが掲げる理念のひとつである「地域密着」というキーワードにおいて、自治体のみなさんの協力がないと難しいところもありますから。

佐伯 私もそう思います。

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