齋藤学が明かす移籍を決意するまでの過程。胸に刺さった中村憲剛の言葉 (4ページ目)

  • 佐藤俊●取材・文 text by Sato Shun
  • photo by Jiji photo

 選手にとっては、チームに必要とされないことが一番きつい。まだやれるという気持ちで、頑張ろうと思って日々の練習をこなすが、いざベンチ外となれば気持ちが落ちる。そこから2日間は、やり場のない怒りを抑えられず、ふと苛立ちが表情に出てしまい、練習には集中できず、腐った。

 そんな時、声をかけてくれたのが、戸田光洋コーチと寺田周平コーチだった。

 練習での齋藤の異変を素早く察知した2人は、「少し話そうか」と声をかけてくれた。しかし、苛立つ齋藤にはその優しい声を受け入れる余裕がなく、素っ気ない返事でコーチを遠ざけたこともあった。

「もう最悪ですよね。それでも『とにかく、いいから』ってミツさん(戸田コーチ)とかに手を引っ張られて、そこから1時間ぐらいグラウンドで話をしました。僕だけじゃなく、毎回ベンチ外の選手をつかまえて、いろいろ話をしていました。それに練習試合があると、その映像を作って持ってきてくれたりして、そういうのがすごく心に響いた。ほんと、ありがたかったです」

 鬱積したものを口にすると、気持ちが少し軽くなった。

 それから齋藤は、ベンチ外のメンバーとともにきついメニューに取り組み、練習後には走り込みなどを始めた。それを続けているとベンチ外の選手の中に、「みんなでがんばろう」という一体感が生まれてきた。

 8月29日、清水戦でシーズン初スタメンに選ばれた。いろんな思いを噛みしめた齋藤はハツラツとしたプレーを見せ、チームは5-0で大勝した。

「スタメンで、とにかく自分が引っ張っていこうと思っていた。それまで試合にずっと出ていた選手、ケガから戻りの選手も夏場で疲れていたと思うけど、僕は疲れていないし、ベンチ外の選手と練習をしてきた。それを全部出しすしかないと思っていました」

 腐っている姿を見れば誰だって、試合に使いたくないと思うだろう。だが、齋藤はそのまま落ちていかずに踏み止まり、スタメンに復帰することができた。

「ベンチ外のみんなを含めて、僕の周りの人たちに感謝ですよね」

 そして、そこからリーグ終了後まで齋藤は2度とベンチ外になることはなかった。

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