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二冠達成。中村憲剛は川崎の切り札であり監督にとって心強い存在だった (2ページ目)

  • 浅田真樹●取材・文 text by Asada Masaki
  • 代表撮影●JMPA・ベースボール・マガジン社

 試合展開を考えれば、仕方がない面はあっただろう。

 川崎は前半から圧倒的にゲームを支配し、いくつもの決定機を作り出した。相手のガンバ大阪が、実質5-4-1の布陣で守備を固めていたにもかかわらず、である。

 ただ、ゴールだけが遠かった。

 後半10分、ようやくFW三笘薫が先制点を決めたものの、攻撃の迫力や質、あるいは積み上げた決定機の山を考えれば、わずか1点は物足りなかった。逸機が続く試合は、川崎にとって嫌な流れで進んでいるとさえ言えた。

 案の定、試合終盤、G大阪は布陣を4-4-2に変更し、猛反撃に打って出た。川崎は自陣ゴール前で耐えるだけの時間が続き、浮き足立ったかのようなイージーミスも生まれた。

 もはや川崎にはしたたかに追加点を狙う余裕はなく、虎の子の1点を守り切るしかない。そんな試合展開で、中村の投入が得策とは思えなかった。

 勝つには勝ったが、有体に言えば、"中村を使えなかった"試合である。

 しかしながら、深謀遠慮の指揮官は、決して"追いつかれることを恐れて中村を使えなかった"わけではない。むしろ、あらゆる可能性を考え、"勝つためにあえて中村を残しておいた"のである。

「こういうゲームは一発のスキで、セットプレーも含めて、失点するケースがある。ラスト10分は、それが起きてもおかしくなかった」

 そう語る鬼木監督は、当然逃げ切りを狙いながらも「延長まで考えていた」。

「もし延長になったとき、スタジアムの雰囲気を変えられるのは誰か。そういう状況になっても、新たなパワーを生み出せるのが、憲剛だった」

 引退の花道に中村をピッチに立たせることだけを考えるなら、ラスト数分、あるいはロスタイムの数十秒だけでも、出場させる手はあっただろう。

 だが、万一そこで失点し、同点に追いつかれるようなことになれば、ムードは最悪。試合の流れは大きくG大阪に傾いてしまいかねない。

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