伊藤翔は何かを変えたくて移籍を決意「鹿島には勝ち方を知りに来た」 (4ページ目)

  • 寺野典子●文 text by Terano Noriko
  • 渡部 伸●写真 photo by watanabe shin

――鹿島のFWは「点を取るだけが仕事じゃない」というモットーがあります。ゴール以外の仕事も消化しなければならない。その難しさは感じますか?

「シーズンが始まる前、(鈴木)優磨と食事へ行ったときに、『鹿島のFWは大変です』みたいな話は聞いていました(笑)。でもそれは特別なことではない。守備をしたうえで、ゴール前へも走っていくというだけの話なので。難しいことではない」

――実際にやるのは大変かもしれませんけれど(笑)。

「だからこそ、臨機応変にいろいろなプレーを試し、実行できる鹿島の環境にはやり甲斐を感じています。マリノス時代は点を取る形がチームとして出来上がっていたから、それを身体にしみこませていくという感じだったし、はっきりと役割が決められていて、もっとこうしたいと思ってもできなかった。『もっとできることがあるのにな』という感覚がありました。でもまあ、FWは球出しの選手と呼吸が合えば、どこへ行ってもチャンスがあると思うので」

――先ほど、開幕戦に敗れて、まだ乗り切れていないというお話をされていましたし、3月中旬以降しばらくゴールからも遠ざかりました。

「それでも、悪いなりにも勝っているというのは、鹿島っぽい感じがするんですよ。思えば、対戦したときも、滅茶苦茶強かったわけではないのに、なんか負けてしまうっていうのが鹿島だったし。それが継続してできているなとは思えます。すべての試合で快勝できればもちろんいいし、それを目指してやってはいるけれど、そんなにうまくはいかない。でも、仙台戦や神戸戦のように1-0で泥臭く勝ってもいます」

――粘り強さを評価されても、本当なら2点目が決まればもっと楽に勝てる。2点目が取れないから結果1-0で粘った勝利となっているだけのようにも感じます。

「もちろん、2点目を決めたいと誰もが思っています。だけど、2-0で勝とうが、1-0で勝とうが、たとえば10-0で勝とうが勝ち点3は変わらない。もっと言えば、どのチームに勝っても勝ち点は同じなんです。そういうリーグ戦で、勝ち点を積み上げていくことが大事だし、その積み上げが最後に効いてくる。勝ち点をボロボロ取りこぼしていけば、最後に響くというのは、みんながわかっていることですから」

――そういう鹿島のリアリスティックな考えは伊藤選手にも合う。

「そうですね。現実的というか、選手が勝ちたいと思うのは当然のことであって、もちろん、内容が伴って勝てれば最高ですけど、悪いなりにも勝つというのは、今まで在籍したチームではできないことだったから、そういう意味でのうまさが鹿島にはあると思っています。時間の使い方にしても、ある程度のスキルを持った選手じゃないと上手くはできないから、それこそ、前の神戸戦のときも聖真とベンチに座って、『これ、鹿島っぽいですよ』」って(笑)、話していたんです」

――内容では圧倒されていたのに勝利した名古屋戦も大きいですね。

「そうですね。あれはデカかった。結局リーグ戦が終わったときに、残るのはポイントであって、ひとつひとつの試合がどうだったかなんて、次の年には忘れているから(笑)」

(つづく)

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