【育将・今西和男】松田浩「本当はサッカーより、海が好きな人」 (3ページ目)
「どうしたんですか」「落ち着いて聞けよ」と今西は神妙な顔つきで言った。「弟さんが亡くなった」打ち上げ直後の予想もしない発言に「変な冗談よしてくださいよ」と思わず口から抗議の言葉が出た。「こんなこと冗談で言えるか!」伝える今西も悲しかったからこそ、怒気を孕んで叱ってしまった。
あまりに突然の出来事だった。11歳年下の弟の剛は受験期で、ちょうどセンター試験の1日目が終わり、自宅で翌日に備えて勉強をしていた。就寝した後に出火し、1階から逃げようとすれば逃げられたのであるが、責任感が強く119番をしようと電話に向かったところで、一酸化炭素中毒になって亡くなってしまったという。
松田にとって剛は年も離れていたこともあり、親子に近い情のようなものもあった。小学1年生の授業参観のときに家業の酒屋の配達が忙しくて、母親が出席できなかった。「嫌だ嫌だ」と駄々をこねる剛を見て、「じゃあ俺が行ってやるよ」と高校3年生の松田が代わりを買って出たこともあった。そんな思い出が詰まった、まだ18歳の弟の突然の死を異国の地で受け入れるのはあまりに酷である。同じ住居に住んでいた両親も気道をやけどして、ICUに入ったままだという。今すぐにでも飛んで行きたいが、それも叶わない。明日の便までどういう精神状態で過ごせというのか。
今西は「お弔いをわしで良かったら、付き合うけえ」と言って、ウイスキーを持って来てくれた。
「やっぱりいろいろと思い出はあるんじゃろ」無骨な言葉であるが、朝近くまでずっと話を聞いてくれた。
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