豊田陽平インタビュー「今季の鳥栖は甘えが出ている」 (6ページ目)
歴戦の男は堅牢な情念を奥底に沈める。目の前の事象に一喜一憂しない。単純剄烈(けいれつ)な自負心が行動のバネになるのだ。
今年6月のW杯2次予選、シンガポール戦で、豊田は日本代表のメンバーから漏れた。悔しさを覚えるし、奮起も促されたが、焦りや動揺はない。負傷したFW川又堅碁の代わりにまったくタイプの違うFW永井謙佑が選ばれても、「年齢による優先順位があっても不思議ではないし、タイプとか関係なく、序列があるのかも」と、至って冷静だった。
格上の日本がシンガポールに苦戦し、無得点で引き分けたことにも冷静な視点を持っていた。
「実績を考えると物足りない結果でしたけど、実際に中に入ってみないとわからないことは多いんです。だから発言は難しい。例えば監督の会見での発言にしても、選手の立場で言わせてもらえば、“ロッカールームで何を話したか”が知りたい。監督というのは自分の選んだ選手についてネガティブには極力言わず、むしろ矢面に立とうとするものですからね」
その一方、日本サッカーのカリスマ的存在であるカズのコメントには、素直に感謝の気持ちを吐露した。
「光栄なことですね。カズさんと面識はないんですが。今でもよく覚えているのは、京都サンガ時代に神戸でヴィッセルと試合をしたとき、当時カズさんがおられて、得点後にカズダンスを踊ったんです。そのとき、西日がそこにだけ射し込み、まるでスポットライトが当たっているように見えました。自分はベンチにいたので、凄いなと眺めていましたね。スーパースターに自分のことを話してもらえて、本当にありがたいです」
豊田は相好を崩して言った。
「次にハリルさんに呼ばれたら? ぜひ一度、個別に話してみたいですね」
席を立とうとする彼はキャップを頭に被り直し、帽子のつばを後ろ向きにした。
(続く)
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