豊田陽平、ブラジルW杯と鳥栖監督交代を語る (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • photo by AFLO

 彼は言葉を選びながら説明している。事実を知らされる前々日は、普段通りの練習風景だったという。そのときはユン・ジョンファン前監督も練習場にいた。ところが、翌日の練習には監督は不在だった。そして7日の朝、クラブ幹部から選手に対して契約解除の話が伝えられた。

「"え、なんで?"というのが、最初の感想でした。ユンさんは自分のサッカー人生を変えてくれた監督ですし、なによりチームが首位に立った後でしたから。ただ、自分としては5年近くも在籍してきたクラブのフロントにも、監督と同じように信頼を置いていますから。"よっぽどのことがあったんだな"と捉えることにしました。

 本音を言えば、クラブと契約をしている選手は、どんな状況でも全力でやるしかないんですよ。ただ、(通達後に)周りの若手選手を見ると、かなり動揺していました。自分は過去に監督交代を経験しているので、"絶対に引きずる姿を見せちゃダメだ"と気持ちを切り替えましたね」

 発表の直後、練習前に選手たちは輪になってミーティングをした。各選手が一人ずつ、意見をぶつける時間を作った。豊田はチーム内のざわめきを少しでも鎮めようとこう述べている。

「こういうことはプロの世界ではあり得ること。すぐに試合が迫っている中、みんなで団結し、一丸となって戦うことが大切だと思う。誰かのせいにせず、自分の責任でやっていこう!」

 前触れもない首位チームの監督契約解除の理由は、「ユン監督側が"法外な契約"を求め、クラブがそれに応じなかったから」と報道されている。もっとも、言い分は両者にあるはずで、監督だけに非があるはずはない。

 そもそもプロクラブが、シーズン途中の首位に立った時期に契約を解除せざるをえなかったことは選手に負担をかけ、ファンを不安にさせた点で失態である。「優勝の可能性を高めるため」というフロントの弁明には無理があるだろう。結果が物を言うプロの世界で、チームを首位に立たせた指揮官が突然消えるという事実は、心理的なボディブローとなり得る。その一方で対戦相手は、「不条理がまかり通るチームに負けない」と勢いづくのだ。

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