豊田陽平、ブラジルW杯と鳥栖監督交代を語る (5ページ目)
2014年、豊田はW杯メンバーに落選し、Jリーグ優勝を狙う状況で監督の契約解除という苦難を味わっている。見方によっては、“逆境を与えられている年”とも言える。しかし、彼は少しも怯(ひる)んでいない。
「ブラジルワールドカップは世界トップのFWに注目しましたね。トップの選手が、シュートのキックがうまいのは分かっているんです。トップクラスのFWと並のFWの違いは、ポジショニング、カウンターの精度、冷静さにあるんですね。刺激になりました。個人的に最も難易度の高かったゴールは、ファン・ペルシーがスペイン戦で決めたダイビングヘッド。GKの頭上に浮かすヘディング技術だけでも凄いのに、ダイビングしながらですから。
あのシュートは、首の力だけでコースを代えているんです。自分としては、その筋力にも驚きですよ。ファン・ペルシーはエレガントなイメージの選手なのに、“そんな力技しちゃうの?”って。ああいうのは自分の方が得意なんですけどって(笑)。コロンビアのハメス・ロドリゲスのボレーも良かったですけど、あれは狙っていたとしても、五分五分。ファン・ペルシーのゴールの方が印象に残りましたね」
豊田はユーモアも交えて説明した。彼はいつかファン・ペルシーのようなゴールを決めるだろうか。
最近は、世界的バスケットボール選手だったマイケル・ジョーダンの本を読み、一節が腑に落ちたという。
<人は新しいことをすることを怖がるよりも、新しいことをしなくなることを怖がるべきだ>
29歳とベテランの領域に入りつつあるが、男は進化のためには妥協していない。今シーズンはステップワークやコーディネーションの改善に力を入れている。ステップの細かな調整や上半身の筋力アップで体の動きを制御。マーカーの前に行くふりをしながら、バックステップで相手のマークを外す。
「まだまだ得点パターンを増やし、精度を上げる必要があります。自分の場合、ポジショニングが生命線。ポジションをとるための駆け引きというか。そこで重要なのはステップワークで、うまくいけばくさびに入ったときのターンも速くなります。得意な得点パターンというのはあるんですが、違う形にも挑戦するべきだと。確立した形は自分の武器だから、そこは決して失ってはいけないんですけどね。もう1ランク、2ランク、FWとして進化するには“やり方は一つじゃない”と探りながらやっています」
そう言って豊田は、闊達な笑顔を浮かべた。
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