ポジション失ったカシージャス。GKは「異質」な存在か? (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • photo by Getty Images

 アタッカーに喩えたら、メッシとC・ロナウドほどにタイプが違う。アタッカー二人は何らかのやり方で共存できるわけだが、GK二人は決して並び立たない。なぜなら、手を使うのを許されているのはたった一人だからだ。おまけに、フィールドプレイヤーは交代出場のチャンスが巡ってくるが、GKの交代はほぼ緊急事態。特異なポジションと言えよう。

 筆者は何人も現役サッカー選手のインタビュー取材を行なってきた。そのたび、ゴールキーパーといわれる"人種"は精神構造がどこかで決定的に違う、と肌で感じる機会が多かった。

「ゴールキーパーは心に"魔物"を宿しているのさ」

 関係者はそう嘆息する。GKたちは「得点を入れた方が勝ち」という、ゴールを取り合うフットボールの本質と矛盾した立場にいる。魔物は、失点を防ぐ減点方式の重圧が作り上げたものなのだろうか。たった一人しかプレイできないポジションは孤独だ。

 ジャンプSQに連載中の人気サッカー漫画『1/11(じゅういちぶんのいち)』の単行本第2巻では、GKで神崎真臣というキャラクターが登場する。神崎は万年セカンドGKという境遇に葛藤を覚える。それは、拙著の『グロリアス・デイズ』で取材したGK、小澤英明に通じるものがある。

 小澤は縁の下の力持ちとして、鹿島アントラーズでJリーグ三連覇を経験している。謹直な性格で、「Jリーグ最高のセカンドGK」と各チームから絶賛された。約20年間の現役生活において、ベンチに座っている時間の方が長い選手だ。しかし、本人は正GKとして戦い続けようと真摯に毎日と向き合いながら、チームを盛り立てるという控えGKの本分を果たしていたに過ぎなかった。フォア・ザ・チームで魔物を封じていたのだ。

 その結果、小澤は慢性的な不眠に悩み、夢では破壊衝動にうなされる日々を過ごしている。GKの実状は理解されにくい。2013年1月に退団したアルビレックス新潟では、若いチームメイトから畏怖されていたという。

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