「日本のシャビ」田口泰士(名古屋)の可能性 (5ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 中西祐介/アフロスポーツ●写真

「試合に出られないというのは、こんなに不安だったっけ、と思いますね。おまけに頭を打ったりするし」

 運転する車内には洋楽のクラブミュージックが流れていた。ヒップホップ系の男子が被るようなキャップがフロントガラスにこつんと当たった。

「自分のエネルギーになっていることがあるとすれば、それは沖縄の人たちの気持ちかもしれません。沖縄の人たちは、思っているよりも自分のことを見ていてくれてて。脳震盪を起こした試合のときも、たくさん連絡をくれました。試合の前は『ちばりよ』(頑張れ)とか、メールをもらったり。だから、恥ずかしいプレイはできないんですよ。俺もちっちゃな頃、我那覇(和樹、現在はFC琉球に所属)さんを応援していたので、自分もきっとJリーガーとして注目されているはずだから」

 ハンドルを握る田口は、ウィンカーを出しながら口惜しそうな顔を浮かべた。

「だから、試合に出られていない状況なんて。本当に悔しくて、恥ずかしくて。嫌なんですよ」

 飄々(ひょうひょう)としているが、プレイのイメージは強く持っている。とんちんかんなプレイを周りがすれば、「まー、みてるばやー!」(どこ見ているんだ!)と口さがない。その猛々(たけだけ)しさは、普段ののんびりとした様子からはギャップがある。しかしその闘争心がなければ、見知らぬ土地でサッカーを続け、プロ選手になる機会を得て、プロの世界で揉まれながらポジションを得ることはできなかったのだろう。

 熾烈な競争を、彼は勝ち抜いてきた。そして何よりも、彼にはダニウソンやストイコビッチというお歴々たちが太鼓判を押す知性がある。

「メッセージとまでなっているかどうか分からないけど、自分はパスの強さや角度で、次にどういうプレイを選択して欲しいか、を伝えるようにはしていますね」

 田口はフットボーラーとしての矜持を語る。

「ダイレ(クトパス)は好きですね。やっぱり、サッカーの技術の中で一番難しいと思うんですよ。ドリブルで持ち込むのもいいけど、ダイレは次に起こることを常に考えてプレイしないといけないわけで。相手の裏をかけるし、成功すれば一番有効なはずなんです。なによりダイレがつながると気分がいい」

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