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「日本のシャビ」田口泰士(名古屋)の可能性 (6ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 中西祐介/アフロスポーツ●写真

 田口は、“ピッチを俯瞰(ふかん)し、まったくボールを取られない。試合全体を支配している”と感じることがたまにあるという。その時間を少しでも長くするためには、と彼は試行錯誤している。彼の一本の適切なパスが、能率的なチームプレイを生み出す。

「プロに入って試合に出続けるようになってみて、“メンタルは大事だな”と身にしみて思うようになりました。調子が悪いときこそ、どんなプレイができるかなんですよね。それに、うまくいかない試合の後は悶々として、それは次の試合でいいプレイをするまで“上書き”されない。だからこそ、メンタルが重要になる。精神的に自信を持っているときとそうでないときは、体の疲労も全然違うんですよ」

 田口は今、プロ選手として一流になれるかどうかの岐路に立っている。

「今は代表なんてまったく考えられないです。とにかくレギュラーを取り戻して試合に出ないと」

 彼は向き直って謙虚に言う。ただ、名古屋というビッグクラブでスタメンに定着することは、自ずと代表や海外でのプレイにつながる。プロの世界は上か下か、とどまることがない。

 2011年2月、田口はスペインの名門、レアル・ソシエダに短期留学しているが、当時、Bチームでチームメイトになった同年代のイニゴ・マルティネスは、2012~2013シーズンからレギュラーをつかみ取っている。そしてチャンピオンズリーグ出場権の獲得に貢献すると、今シーズン開幕前にはバルサが食指を動かすなど「欧州の若手ナンバー1センターバック」という称号を得た。

「イニゴ、そんなに出世したんだぁ」

 田口は感慨深げに語った。しかしプロの世界においては、彼も己次第で同じように飛躍することができる。知性的プレイが賛美される男には、羽ばたくべき瞬間が来るはずだ。

「俺は昔から高い目標というのは見据えられない方なんですよ。野心的に目標を語る選手は、観ていてすごいなと思うんですけどね。ハングリーさはあまりない。なんくるないさ~なんで。そこはたぶん変わらない。ただやっぱり、せっかくつかんだスタメンを失うと、焦りますよ。だから、戦う強さみたいな表に気持ちを出していくのも必要なのかな、と最近は思ったりしますね」
 
 2013年9月21日、第26節の名古屋対FC東京。田口は第21節以来となるスタメン出場の機会をつかんでいる。しかし上位浮上を狙った名古屋は0-2と敗れ、田口も0-1とリードされた後半35分に交代で退いた。決して彼自身のプレイが低調だったわけではない。喝采を浴びせたくなるダイレクトパスで、何度か攻撃のいい流れを作った。ただし日本代表の高橋秀人と中盤でマッチアップしながら、劣勢を強いられたことも事実である。

 なんくるないさ。

 田口は琉球人として彼なりの想いを込め、その言葉をサインに書き添え続ける。

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