サッカー日本代表が御大アンチェロッティ率いるブラジル代表を撃破した意味 目標のワールドカップ優勝を狙うために必要なことは?
あのカルロ・アンチェロッティが苛立っている。
ほんの20分ほど前までは、イタリア人監督らしく完璧にスーツを着こなした貫禄あるいでたちを見せていたが、67分にマテウス・クーニャのゴールがオフサイドで取り消されると、つぼんだ両手を顔の前で揺らすイタリア人特有の「嘘でしょ!」のジェスチャーで、韓国人の線審に激しく詰め寄っていた。「マンマ・ミーア!」とまで言ったかどうかは、確認できなかったけれども。
ブラジル代表監督に就任してから初の複数失点を喫し、渋い表情を見せるカルロ・アンチェロッティ監督 photo by Getty Images
現在66歳のこの指揮官は、現役時代に近代戦術の始祖のひとり、アリーゴ・サッキの薫陶を受け、ACミランでヨーロピアンカップ(チャンピオンズリーグの前身)を2度制し、指導者としてはミランで2度、レアル・マドリーで3度、欧州の頂点に立っている。モダンフットボールの生き字引であり、史上最高の監督のひとりだ。
そんな名将のなかの名将を、悩めるフッチボウ王国ブラジルの代表チームが長い交渉の末、三顧の礼で迎えたのは、今年5月のこと。直前の試合でアルゼンチンに1−4で敗れていたセレソン・ブラジレイラ(ブラジル代表の愛称)は以降、3勝1分1敗、9得点1失点を記録している。
唯一の失点は、標高4,088メートル(富士山よりも断然高い)にある人工芝が敷かれたボリビアのスタジアムでの一戦(0−1)で、そこはボールが奇妙な軌道を描くことで知られている。高山病の懸念もある。どんなチームでも、失点や黒星を喫しかねない場所だ。
また4日前の韓国でのアウェー戦では、5−0の大勝を収めている。つまり、イタリアの御大──W杯で最多5回の優勝を誇るブラジル代表史上初の外国籍監督だ──が統率する新生ブラジルは、攻守に隙のないチームに生まれ変わった......はずだった。
10月14日に東京スタジアムで行われた日本戦でも、前半はその印象を強くした。一見、互角に戦っているようでも、勝負どころで一気にスピードと集中力を上げ、軽快なパス交換から26分にパウロ・エンリケ、32分にガブリエウ・マルチネッリがネットを揺らし、2点を先行。イタリア伝統の守備のメソッドを豊富に持つ指揮官のもと、ブラジルがそのまま逃げ切るか、あるいは韓国戦のようなさらなる加点も予想できた。
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著者プロフィール
井川洋一 (いがわ・よういち)
スポーツライター、編集者、翻訳者、コーディネーター。学生時代にニューヨークで写真を学び、現地の情報誌でキャリアを歩み始める。帰国後、『サッカーダイジェスト』で記者兼編集者を務める間に英『PA Sport』通信から誘われ、香港へ転職。『UEFA.com日本語版』の編集責任者を7年間務めた。欧州や南米、アフリカなど世界中に幅広いネットワークを持ち、現在は様々なメディアに寄稿する。1978年、福岡県生まれ。

