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サッカー日本代表の「ベストメンバー主義」を後押しするメディア ブラジル戦は「本番」ではない

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki

連載第61回
杉山茂樹の「看過できない」

 GK/鈴木彩艶、CB/伊藤洋輝、板倉滉、瀬古歩夢、WB/三笘薫、堂安律、守備的MF/守田英正、遠藤航、シャドー/南野拓実、久保建英、CF/上田綺世。この11人は今年の3月20日に行なわれたワールドカップアジア3次予選バーレーン戦の先発メンバーだ。これに冨安健洋、町田浩樹、高井幸大、鎌田大地あたりを加えた選手たちが、少し前までの考えられるベストメンバーだった。

 しかしこのなかで10月のパラグアイ戦、ブラジル戦のメンバーに何人の選手が加わっているだろうか。

日本代表に招集されたもののケガのため不参加となった遠藤航 photo by Sano Miki日本代表に招集されたもののケガのため不参加となった遠藤航 photo by Sano Miki 不参加は伊藤、板倉、三笘、守田、遠藤、冨安、町田、高井の8人を数える。上記の半数以上がスタメンどころか、27人のメンバーそのものから外れているわけだ。理由はケガであるが、サッカー選手にとってそれは避けて通れない宿命のようなものだ。誰しもが抱えるリスクである。

 今回はさらに久保も足の不調を訴えている。常識的に考えて無理使いはできない状態にある。「大変だ!」と慌てる世の中の雰囲気は、メディア報道からもうかがい知ることができる。

 サッカーにおける「ベストメンバー」とは何かを考えさせられる事象である。ベストメンバーは近い将来、必ず崩壊する運命にあるのだ。現在のベストメンバーは半年後のベストメンバーにあらず。サッカー選手のコンディションほど不確かなものはないとの前提に立てば、ベストメンバーの"賞味期限"がいかに短いかが鮮明になる。

 サッカーとベストメンバーは親和性が低いと言ってもいい。ベストメンバーとは常に追い求めるものではあるが、ベストメンバーがハッキリしているチームほど、旬は短い。ベストメンバーが不鮮明であるほうが可能性は膨らむ。選択肢が多いことを意味するからだ。

 森保一監督は9月のアメリカ遠征で、ベストメンバーとそれ以外とを分けるような戦い方をした。ベストメンバーでメキシコと戦い、それ以外で続くアメリカを戦った。8カ月先に控えるワールドカップ本大会を想定した戦いをしなかった。メキシコに勝ちたいという欲求が勝ったと考えるのが自然だ。

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杉山茂樹の「看過できない」

著者プロフィール

  • 杉山茂樹

    杉山茂樹 (すぎやましげき)

    スポーツライター。静岡県出身。得意分野はサッカーでW杯取材は2022年カタール大会で11回連続。五輪も夏冬併せ9度取材。著書に『ドーハ以後』(文藝春秋)、『4-2-3-1』『バルサ対マンU』(光文社)、『3-4-3』(集英社)、『日本サッカー偏差値52』(じっぴコンパクト新書)、『「負け」に向き合う勇気』(星海社新書)、『監督図鑑』(廣済堂出版)、『36.4%のゴールはサイドから生まれる』(実業之日本社)など多数。

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