検索

上田綺世が持つ日本ストライカー史上類を見ない能力とは 「思考の鬼」が化ける時 (3ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki

【「きれいな世界を」という願いを込めて】

「お互いの信頼を得て、得られて、ストライカーは成り立つ。一匹狼はダメ。ましてや、僕なんて動き出しが武器で、いくら評価してもらっても、パサーがいないと生きない。自分のゴールは最後の1割、組み立ててくれる9割は別にある。他の選手が自分の色を発揮し、それを成功に終わらせるのが僕の役目。それが自分のなかでのストライカーだと思います」

 そうやって自分ととことん向き合う上田だが、陰気臭く考えるタイプではない。大学生の時点でも、自己表現にうずうずとしていた。ストライカーのナルシズムと言うのか。

「小学校のころ、クリスティアーノ・ロナウドのドキュメントをテレビで見たことがあって、ロナウドに『クリスティアーノ・ロナウドをどう思うか』という質問があるんです。それに彼自身が『大好きだよ』と答えて。人によっては、『ヘンなの』って思うかもしれない。でも、僕は素直に格好いいなって共感しました。自分が好きだからこそ、もっと高めたいって、思えるんだろうなって」

 上田は巨大な欲に突き動かされる。そのための論理的検証なのだろう。欲と論理を化学反応させ、世界を魅了する選手になれるか。

 上田が生まれた折、故郷のひたちなか市は大雨に見舞われ、河川が氾濫し、家屋が浸水する被害に遭っている。そこで「嵐」という名前になる可能性もあったという。しかし、父が反対したそうだ。

「きれいな世界を」

 そんな願いを込めて、「綺世」という名前になったのだと言う。その名前は世界を席巻するか。今はその途上にある。

著者プロフィール

  • 小宮良之

    小宮良之 (こみやよしゆき)

    スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。パリ五輪ではバレーボールを中心に取材。

フォトギャラリーを見る

3 / 3

関連記事

キーワード

このページのトップに戻る