複雑化するサイドバック戦術をかつての第一人者・加地亮はどう見ているか「メリットもあるがリスクもある」「日本代表ではまだ時間がかかる」 (2ページ目)

  • 篠幸彦●取材・文 text by Shino Yukihiko
  • 木鋪虎雄●撮影 photo by Kishiku Torao

【なぜサイドではなく中にポジションを取るのか】

 SBがタッチライン際だけでなく、中へポジションを取る意味は相手を惑わすことにあると思います。こちらが攻撃の時に、SBに対して基本的に相手はサイドハーフが見る形になります。

 そこでSBが少し中にポジションを取ると、相手のサイドハーフは自分も中へズレてSBについていくべきか迷いが生じることになります。それはなぜかと言うと、中についていくと自分のうしろにいる攻撃側のサイドハーフやウイングへのパスコースが空いてしまうからです。

 その一瞬の迷いで、攻撃側はパスを受ける時間を作ったり、相手の全体のプレスのタイミングを遅らせたり、マークを中途半端にしたりするわけです。

 また、守備側のサイドハーフが釣られて、攻撃側のウイングやサイドハーフへのパスコースが空くと、こんどは守備側のSBがそこへ釣り出されることになります。そうすると守備側のSBの裏のスペースが空いて、中に入った攻撃側のSBがそのスペースに走って裏を取るという選択肢も生まれてきます。

 また、サイドハーフやウイングへのパスコースが空けば、相手の前線や中盤のラインを越えて、よりラクにボールを高い位置に運べるメリットもあります。

 さらに惑わせる要素、メリットはもうひとつあります。それはSBが中に入ると相手のボランチがマークを見るエリアに入ることになるので、SBがそのボランチを引きつければ、味方のボランチをマークしづらくなるわけです。

 このように相手にとって中途半端な立ち位置を取ることで、相手のサイドハーフとボランチに対して、どれだけ迷いを生じさせるかというのが、SBが中に入る時のポイントだと思います。

【プレーが複雑化するとリスクもある】

 SBの立ち位置で相手を惑わすと言っても、闇雲に中に入っていけばいいというわけではなく、入るタイミングには注意する必要があります。後方からのビルドアップでボールを回す時、あまり早めに入りすぎると相手はラクにマークを受け渡して捕まえやすくなってしまう。これだと惑わせるという意味がなくなってしまいます。

 そうなると逆にこのSBのポジショニングはリスクが高くなります。簡単にマンツーマンの形でマークにつかれてしまうと手詰まりになって、いわゆるハマった状態になり、インターセプトも狙われやすくなってしまうんです。

 この状況でボールを奪われてしまうと、SBが中に入っているためサイドのスペースはガラ空き。そこをカウンターで使われると、一気にピンチになる可能性が高くなってしまいます。

 また、中に入るのはいいけど、入った時に中でボールを受けてしっかりと組み立てられる技術と視野の広さ、サッカーIQも重要です。それがなければ中央という危険なエリアで、簡単にボールをロストするリスクが高くなってしまいます。

 だからタッチライン際を上下動するだけのタイプのSBでは、なかなか中へ入るのは難しいと思います。中に入ることでメリットはありますが、入るタイミングや選手の適正、チームとして共通意識がなければ、逆にリスクになってしまうのも理解しておかなければいけないと思います。

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