岩清水梓が産後復帰に向けて必要だと感じたこと。「それを受け取れたのは出産の3、4カ月前だった」

  • 早草紀子●取材・文・写真 text&photo by Hayakusa Noriko

岩清水梓インタビュー後編

 ドイツワールドカップ優勝、ロンドンオリンピック銀メダル、カナダワールドカップ準優勝----岩清水梓は不動のセンターバックとして、なでしこジャパンを支え続けた。そして所属する常勝軍団である日テレ・東京ヴェルディベレーザでも欠くことのできないリーダーへと成長を遂げた。

出産=引退じゃないことを証明している岩清水梓選手出産=引退じゃないことを証明している岩清水梓選手この記事に関連する写真を見る そんな岩清水は、2019年に結婚し、2020年3月に男児を出産。男子では当たり前の光景である「子供と一緒に入場する」という夢を叶えるべく、ママさんアスリートとしてピッチに戻ってきた。彼女の体験から、まだまだ少ないママさんアスリートが活躍するヒントを探る。

 今シーズンのスタートを切る初練習では誰よりも声を上げ、ムードメーカーとしてピッチを駆け回っていたのが岩清水だった。出産前チームに所属していた長谷川唯、籾木結花、田中美南らは、チームを巣立っていった。今シーズンはさらに若返ったチームメイトたちの中では34歳の岩清水は挑戦者となる。

「出産前は自分のことだけを考えて時間を使うことができましたが、今は子供優先です。大変なこともありますが、もう1年経つのでそのバランスには慣れてきました。サッカーしている時間って育児から離れて没頭できるんです。終わった瞬間『お迎え!』ってなるんですけど(笑)。それってすごいことだなって母になって思います」

 過去に、なでしこジャパンでも宮本(旧姓・三井)ともみさん(現U-19女子代表コーチ)が子供同伴で大会に出場したことがある。岩清水もそれを身近で見ていたひとりだ。

「あの切り替えはすごいなって思っていましたけど、今はすごくわかります。グラウンドを離れた瞬間に選手のスイッチが切れる。今までもオンとオフの切り替えはする派だったんですけど、母の立場に変わると、より強烈なスイッチになった気がします」

 育児においては母親だけの奮闘では成立しない。岩清水も夫と出産前から十分な話し合いをしたという。9月に新しく始まるWEリーグでは、妊娠や出産などのために規定にある期間内でチームに籍を残したまま登録枠を外れることが可能で、また活動を再開する場合は期間外でも登録できることを定めた。いわゆる産休が認められる形となる。FIFAにおいても選手には14週間の産休を得る権利があり、その間最低でも3分の2の報酬を受け取ることができるといった規則の提案がなされるなど、世界でも女性の妊娠・出産における環境整備に大きな潮流が生まれている。

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