澤穂希の軌跡(3)「もっと攻めて」最後に叶った大野忍の願い (2ページ目)
――「守備的にならないで」
それは大野の中ににじみ出てきた願いに近いものだった。チームのためを思い、自ら引いて若手を成長させようとする澤の姿に、大野は自分を納得させることができなかった。
「澤穂希でい続けるためには、『そうじゃない!』ってずっと思ってた。バンバン点が取れるのが澤穂希なんだから。ゴールを決めるには、自分の近くにホマ(澤)がいた方がいいし、相手も絶対にイヤだからって言い続けた。攻撃に対するモチベーションを上げて欲しかった」
あくまでも"攻撃人"であって欲しいという大野。そんな願いを叶えるように最後の試合となった皇后杯決勝で澤はゴールにこだわるプレーを見せた。澤のゴールの瞬間、満面の笑顔で駆け寄った大野。ただのゴールではない。試合を決定づけるゴールを決めるのが澤穂希。そんな澤のゴールを誰よりも待ち望んでいたのは大野だったのかもしれない。
決して雄弁に語ることのない澤が見せ続けた背中は、とてつもなく大きなものだった。それは決して華やかな成功ばかりの道ではなく、むしろ厳しい茨の道だったからこそ、大きく感じられた。もがきながら走り続けた澤が残したメッセージをどんな形でピッチに描くのか。大野が見せる今後のプレーがそれを証明してくれるはずだ。
(おわり)
2 / 2