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「興奮しないでやりましょう」はなぜ切り取られたのか 江川卓が同級生・遠藤一彦に語った「空白の一日」の真実 (2ページ目)

  • 松永多佳倫●文 text by Matsunaga Takarin

「記者会見は20分間あって、いろいろ説明していたんだけど......放送では全部カットされて、『興奮しないでやりましょう』という部分だけが切り取られたんです。会見の前に、新聞記者の方が怒鳴り声を上げたから、『興奮しないでやりましょう』と言った。それを一度だけ放送してくれたことがあって、それを見ると、そう言った理由もわかる。何の前触れもなく、いきなり『興奮しないでやりましょう』なんて、ふつうは言わないでしょう」

 江川は面白おかしく語ってくれたが、指摘はもっともだ。実際には「興奮しないでやりましょう」というひと言だけが切り取られ、あたかも江川の不遜な態度だけが強調された映像として流された。

【2年間続いた1対17の戦い】

 全国民の敵となった江川を攻撃すればするほど、新聞や週刊誌は売れ、ワイドショーの視聴率も上がった。『空白の一日』は、巨人が主導して仕組んだ出来事であるにもかかわらず、悪の権化として槍玉に挙げられたのは、江川ただひとりだった。

 江川にとって最大の懸念は、巨人に入ることそのものではなく、入団後に待ち受ける現実だった。江川はあえて軽い口調で言う。

「小林さんは人望のある方で、巨人の選手たちとも仲がよかった。その人が出て行ったことで、チームのなかには『江川には協力しないでおこう』という空気があったんです。飛び込めば捕れそうな当たりが簡単に抜けてヒットになったり、攻撃の時もランナーがいるのに打たなかったり......。『うわーすごいな』って思いましたよね」

 遠藤はしんみり聞いていた。そして思わず尋ねた。

「それはどれくらい続いたの?」

 江川はほんの一瞬、天を仰いでから、口を開いた

「2年だね」

 2年目は16勝で最多勝を獲ったシーズンだ。

「2年目の最多勝は、ほんと実力よ。だって2年間は1対17で試合していたみたいなものだから。敵は17人いた」

 この時、遠藤は初めて笑顔を見せ、「いい表現するね」と言った。

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